■日本社会は男性が育児休暇を取れる時代になったのか
小泉環境大臣が現職の大臣として初の育児休暇取得を表明されていますが、このことに関し、NHKが2020年2月に行った世論調査では、「賛成」が67%と過半数を占める結果を得ました。
調査は全国の18歳以上男女を対象に3日間に及ぶRDD法(無作為の電話調査)で行われたものですが、2,170人中1,252人から有効回答を得た結果となります。
この件に関しては「男性の休暇取得」よりも現職大臣の立場に焦点が向けられているため一概にいえませんが、それでも過半数が一定の理解を示しているといえるでしょう。
それでは果たして現在の日本は、男も育児期間にまとまった休みを取りやすい環境が整ってきたといえるのでしょうか。
時事通信が2019年7月に行った世論調査によると、そもそも育児休業制度があるとする回答が全体の45.4%で、その上で「取得しやすい」とする回答が13.9%にとどまっています。
調査は全国の18歳以上の男女2,000人を対象に個別面接方式で実施され、有効回収率は62.8%となっています。
その結果、31.5%は「制度があっても取得しにくい」と回答し、「制度が未整備で取得不可能」が27.2%、自営業などで制度はないとする回答が17.1%となりました。
制度がある環境においても、「知る限り取得した人はいない」とする回答が42.3%と多く、取得したとしても「2~6日」という短期間が9.6%と最も多い回答です。
つまり、たとえ制度が整っていても「とても取得しやすい雰囲気ではない」とする意見が31.5%と最多であり、取ったとしてもたった「1日」だけという事例も1.3%を占めています。
この結果を見る限り日本社会が劇的に変わったとは言い難く、政府が長年声高に推奨している男の育休取得は、残念ながら浸透しているとはいえない状況のようです。
■そもそも父親は育児に参加すべきか否か
前述の調査結果を見ると、日本では育児は男のするものではないという考えが根強いようにも見えます。
果たしてそうした固定概念がまだ存在しているのでしょうか。
前述の調査では全員に対し、父親の育児参加に対する考え方も同時に調査を行っています。
回答は4つの選択肢から選ぶ方式ですが、その中では「育児休業を取得する必要はないものの必要に応じて手伝うべき」とする考えが39.8%で最多となりました。
ただし、「父親は仕事優先で手伝いはできる範囲」とする声が31.3%、「父親は仕事に専念し育児は母親に任せるべき」とする声が4.1%あり、これらを合わせると35.4%に上ります。
つまり育児に消極的な意見も、育児を手伝うべきとする意見とほぼ同程度存在しているようです
もちろん、「育児休業は当然のことながら取得し、父親は母親と同等に育児に参加すべき」とする育児積極派も20.6%存在します。
ただし積極派は全体から見ると少数派にとどまり、まだまだ育児は女性の仕事という考えが強いことが伺える結果となりました。
こうした実態から、父親がまとまった休暇を取得しない理由は政策や制度だけではなく、個人の考え方にもあることが明らかになったといえるでしょう。
それでも厚生労働省が速報として公表した「平成30年度雇用均等基本調査(速報版)」の結果を見ると、育児休業取得者割合は男性で6.16%となり、前年度比1.02ポイントの上昇が見られます。
逆に女性のほうは前年度比1.0ポイントの低下となっていますが、全体で82.2%の取得率なのでこちらはさしたる変化ではないでしょう。
調査は平成30年10月に実施され、調査対象は全国6,131事業所、調査方法は郵送で調査票を配布し、郵送またはオンラインで回収する方法となっています。
徐々にではありますが、傾向としては上向きであることは事実といえます。
■国家公務員の取得率はどうなっているのか
それでは、国を挙げて育児に関する休暇取得を推奨している、国自身の機関に所属する国家公務員の実態はどうなっているのでしょうか。
人事院が2018年に行った国家公務員(一般職)の育児休業の取得率調査では、21.6%という数値でした。
これは1992年に制度が導入されてからの最高記録であり、前年度の18.1%から見ても3.5ポイントの上昇です。
5年前の2014年度は何と5.5%という低い数値でしたから、それに比べれば約4倍のパーセンテージといえます。
何よりの変化は、休みを取りたい職員が「言い出しやすい環境が整ってきた」とする人事院の分析です。
いかに制度があっても本人が言い出せないプレッシャーがあるようでは意義がありませんが、そうした職場環境も徐々に変化しつつあるといえそうです。
ただ、期間は1ヶ月以下が72.1%と最多であり、数ヶ月単位、年単位で取得する域にはまだ達していません。
■政府の取得率目標達成を阻む足かせは何なのか
もともと父親が育児に参加する必要はないとする意見もある一方、休暇は取得しなかったが本音では休みたかったという声もあるようです。
その大きな足かせになっているのが、パタニティハラスメント、いわゆるパタハラではないかとするのが教育大手のベネッセです。
政府が掲げる育児休業取得率目標は、2020年までに13%となっており、取得率アップのために「イクメンプロジェクト」というキャンペーンも2010年から継続中です。
すでにその時間は過ぎたものの、実際には目標達成はかなり厳しい状況と言わざるを得ないでしょう。
その背景にパタハラがあるというのです。
例えば、育児休業を実際に取得したことで身の上に起こったトラブルとして多いのが、「復帰後の嫌味」「責任ある仕事を任されなくなる」といった人事評価の低下です。
中には異動を命じられたり転勤を命じられたりといった、労務に多大な悪影響を及ぼす事例もあります。
こうした事例を背景に、収入減を懸念するあまり言い出せないケースも少なくありません。
本気で男性に育児休暇を取らせたいなら、国は推奨の域ではなく義務化といった強制力を発揮しなければならないのかもしれません。
制度の有無から始まり、個人の育児に対する考え方の違い、職場の利害関係など理想と現実が入り乱れさまざまな問題を抱えたまま、政府の定めた期日だけが刻一刻と迫っています。