コラム

企業法務・労務に求められるハラスメント対策とその重要性

■ハラスメント対策は企業の義務

セクシャルハラスメントやパワーハラスメントといった言葉が社会に定着するようになって久しくなりました。
これまでは上司が権力に物をいわせて女性や部下に圧力をかける行為がまかり通っていたのですが、こうした言葉が生まれたことによって少なからず抑止されたといって良いでしょう。
とはいえ、ハラスメント行為はよほどひどいものでない限り刑事罰の対象にはなりません。
よってハラスメントを受けた側は民事訴訟でしか対応できなかったのです。
政府はこうした事態に対応するために、新たに法整備を進めることでハラスメントを予防するようにしました。
それが2020年6月から施行される予定の改正労働施策総合推進法です。
パワーハラスメントに関する条文が初めて明文化されたこととあわせて、マスコミなどではパワハラ防止法とも呼ばれています。
残念ながらハラスメントを行った企業がこの法律によって罰則を受けることはありません。
当初は罰則を付ける方向で話を進めていたのですが、さまざまな事情があって見送られてしまったのです。
とはいえ労働者からすれば、法律で明文化されたことによって企業にハラスメント対策を義務化できるようになったのは大きな成果といえるでしょう。
逆にいえば、企業からするとこれまで以上にハラスメント対策を徹底しなくてはいけません。
事前に社員とのトラブルを避けるためにも、早めにどういった対策を採用すれば良いかを考えていきましょう。

 

■ハラスメントの種類を知ろう

先ほどセクシャルハラスメントやパワーハラスメントといった言葉を取り上げました。
一方で、ハラスメントの種類は拡大し続けています。
これはパワーハラスメントではないだろう、と思ってやった行為が、実は別のハラスメントに当てはまっていたということもあり得るのです。
こういったことを防ぐためにはハラスメントの種類をいくつか知っておくのが欠かせません。
セクシャルハラスメントは有名なので説明は省きますが、それに付随して起こりやすいものとしてセカンドハラスメントというものがあります。
セクハラを受けた社員に対して、あなたの誤解ではないのか、と問い詰める行為がこれにあたるのです。
強姦被害にあった女性に対し誹謗中傷を与えることを世の中ではセカンドレイプと呼びますが、ハラスメント行為に関しても似たような事例があります。
ハラスメント被害に遭った社員には同情をもって優しく接することが求められるでしょう。
また、深刻化しやすいハラスメントとしては、モラルハラスメントというのがあります。
特定の社員に対して無視や嫌がらせのような精神的苦痛を与える行為はこれにあたると見て良いでしょう。
いじめというと学校に起こりやすいものとされていますが、企業におけるいじめも見逃してはいけません。
そのほかにも宴会の席で酒を強要するアルコールハラスメント、子どもを持つ女性社員に対するマタニティハラスメント、育休を取得しようとする男性に対するパタニティハラスメントなども挙げられます。
一見するとさまざまなハラスメントがあって対応に困る、と思うかもしれません。
しかしながら、すべての行為に共通するのが他人に関する嫌がらせということです。
他人には思いやりを持って接するという基本原則こそが、ハラスメントを予防する第一歩といえるでしょう。

 

■法務はハラスメントをどう対策すれば良いか?

企業があらかじめハラスメントを防止するためには、なによりもハラスメントに対する知識を広めることが欠かせません。
大抵のハラスメント行為は、これはハラスメント行為ではないだろう、という思い込みがきっかけになって起きてしまうのです。
いかにも大人が子どもに諭すような行為ではありますが、これはやってはいけないことだ、と明文化しない限り人は禁止されていることを理解できないのです。
よって法務部が主体となってハラスメントに関するガイドラインを作り、パンフレットなどを社員に配布することは欠かせないでしょう。
一方で、ハラスメント行為が起こった場合、社員がすぐに声をあげないという懸念もあります。
上司にハラスメント行為をされたけど、トラブルになって仕事がスムーズに行えないようになったら会社に迷惑をかける、ということで黙認してしまう例があるのです。
そうした事態を防ぐためにもハラスメント行為を顕在化させるための取り組みを進めましょう。
具体的には社内で定期的にアンケートを取るという方法があります。
実際に社内でどんなハラスメント行為が起きているかを知るためには、社員の意見を逐一汲み取らなければいけません。
こういった取り組みを行えば、上司からのハラスメントは抑止できますし、社員も会社から守られているという意識を持って安心して仕事に取り組めるでしょう。

 

■ハラスメント対策を怠ると企業イメージは失墜!?

もっとも、こうした世間の流れに反してハラスメント対策を行っている企業はまだまだ少ないといわざるを得ません。
実際のところ、先ほども述べたようにパワハラ防止法には罰則規定はないのです。
また、ハラスメント対策を行ったところで生産性が上がるわけでもないのだし、ほかにやるべきことがあるということで見送っている企業も多くあるでしょう。
しかしながら、ハラスメント対策を怠ると企業に重大な損失を及ぼしてしまいかねません。
たとえば企業内でパワーハラスメントが起き、社員から訴訟を起こされたと考えてみましょう。
パワハラ防止法には罰則規定はありませんが、民事訴訟を起こされ明確な証拠を持ち出されれば損害賠償は避けられません。
それだけでも多額の損失が生じてしまいますが、それだけでなく企業を経営していくうえで最も大事なイメージが失墜してしまうのです。
あの企業は社員を守る意識がない、というイメージが先行してしまえば、取引先との提携などもうまくいかなくなるでしょう。
そのほか新入社員が志望してくれることもなくなってしまいます。
そうなれば優秀な人材を手に入れるチャンスもなくなってしまうので、結果的に生産性は低下してしまうでしょう。
ハラスメント対策は確かに短期的に見れば利益につながることはありません。
しかしながら、リスク管理という観点から見れば間違いなく損失を食い止める効果はあるのです。
会社の業績悪化を防ぐためにも、ハラスメント対策は重要といえます。

 

■いざというときのために準備をしておこう

今までと労働施策総合推進法が変わり、2020年6月1日から改正法が施行されたことでハラスメント対策が必ず必要となり企業の義務化もされます。
これまでもハラスメントという言葉は、ニュースなどでも話題にはなっていました。
特に大企業では2020年6月1日から施行となり、中小企業でも2022年4月から始まります。
こちらは通称パワハラ防止法とも呼ばれていて、適切な対応が必要となります。

・どのような対応が必要となるのか

今後はもし被害に遭った人やそれを見ていた人から相談があったときには、適切な方法で話を聞き対処していく必要があります。
「それはあなたの気のせいだよ。」として終わらせてしまうことはできません。
しっかりと話を聞き、ハラスメント対策を具体的に行う必要があります。
対応として、まずハラスメントを会社の中で起こさないように就業規則や社内報、各種研修などを行い、従業員にも意識を高めてもらうことが重要です。
昔とは違い今は過度な負担を強いるようなやり方はダメだということを、知ってもらうハラスメント対策が大切です。
このとき会社の中でも、法務部や労務部とも一緒に協力しながら進めていきましょう。
社内コンプライアンスなどの研修は法務部で行うケースも多いため、連携しながらどのように対策を講じていくか考えていきます。

・事前にどのような準備が必要か

まずはいざハラスメントがあったときにすぐに相談できる窓口が必要ですので、どのように設置するかを考えましょう。
相談窓口は社外の組織に委託も可能で、社内ではない組織だからこそ相談する側も利用しやすいというメリットがあります。
中立的に話を聞けて、解決へと導いてくれる専門家にお願いをしておくのも一つの手です。
そして相談窓口が決まったら、今度は従業員にどこに相談すれば良いのかを告知するようにします。
パワハラに関する資料を提供することやどのような風になっているのか研修も定期的に行う必要もあります。
事実確認後に、行為に対する罰則や処置をどのようにしていくのかも具体的に考え、マニュアル化しておくようにしましょう。
相談者が今後働きにくくならないように、プライバシーの保護や不利益になるような扱いしないように対策を決めておいてください。
ハラスメントを受けたときには証拠も必要となってきますので、どのタイミングだったのかメモを残したり、そのときのやり取りを録音しておいたりなど具体的な行動の仕方も伝えておくと安心です。
事前にハラスメント対策について準備しておくと、相談者が出てきてもどのように進めていけば良いのか決まっているため企業としても効率が良いでしょう。

■不安なようであれば労務のプロフェッショナルに相談しよう

とはいえ、これまでハラスメント対策を行ったことのない企業にとっては何から手をつけて良いかわからないかもしれません。
どのように就業規則を作ればよいか、どのように社員からの声を汲み取れば良いか、企業にそういったノウハウが欠けているからこそ政府が動かざるを得なかったという側面は否めないでしょう。
企業の法務を扱うプロフェッショナルとしてはやはり弁護士が挙げられます。
企業にあらかじめ専属の弁護士がいるならば、どのように対策を行えば良いか意見を仰ぐべきです。
その他の専門家としては社会保険労務士が挙げられます。
さまざまな案件を取り扱う弁護士と違って社会保険労務士は労務にかけてはプロフェッショナルですので、専門的な意見を仰ぐことができるでしょう。
なにより、こうした外部の声を取り入れることでよりハラスメントの実態がわかりやすくなるという面も見逃せません。
会社としてはこれが当たり前だと思っていた行為も、世間ではハラスメントにあたる、ということも十分にあり得るのです。
一度会社の環境を客観視するためにも、専門家の意見を聞き入れるようにしましょう。

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