■今やイクメンは当たり前!
かつて育児といえば女性が務めるもの、という認識が一般的でした。
日本の家庭では子どもが生まれたら養育費は父親が稼ぎ、母親は家で育児をする、というのが常識だったのです。
しかしながら、現在ではそうした常識は覆りつつあります。
経済状況が芳しくなくなり、父親の稼ぎだけで子どもを育てられる家庭は少なくなりました。
また、女性の社会進出も進み、育児にかけられる時間も減りつつあります。
なにより、これまで育児を女性に任せっきりにしてきた反省から、男性も育児に積極的に参加しなければいけないという意識が育まれつつあるのです。
そんな社会の流れに伴って生まれてきたものとして、イクメンという言葉があります。
今や、男性も積極的に育児に参加することが推奨される時代となったのです。
さて、こうしたイクメンを支援するためには企業の協力も欠かせません。
女性が育児休暇を取るのは一般的ですが、同じように男性も育休を取る流れを作らなくてはいけないのです。
■イクメンに対する嫌がらせも深刻?
しかし、残念ながらまだまだ男は育児をするものではない、という固定観念に囚われている人が少なくありません。
ただ単に固定観念に囚われているならまだしも、育児休暇を取ろうとしている男性社員に対して嫌がらせの言葉を投げかける人もいるのです。
本人にとっては悪意なくそうした言葉を発しているかもしれませんが、これはれっきとしたハラスメントといえるでしょう。
実際のところ日本はまだまだ男性の育児に対して偏見を持っているといわざるを得ません。
たとえば海外では男性の育児休暇を積極的に認める傾向にあります。
ノルウェーではなんと90%の男性が育児休暇を取った経験があるというデータまであるのです。
そのほか、先進国のドイツでも30%以上の男性が育児休暇を取っています。
それに対して、日本はなんと5%にとどまっているのです。
さまざまな要因が絡んではいるでしょうが、育児休暇を取ろうとする男性に対して何かしらのハラスメントが関係しているため、こういった数字が残ってしまうことは否めません。
育児している女性に対して嫌がらせをする行為をマタニティハラスメントと言いますが、男性に関してはパタニティハラスメントという言葉が当てはまります。
イクメンと同様、まだまだ社会に根付いていないパタニティハラスメントですが、法務や労務の観点からすると見逃せないものです。
思わぬところで社員とトラブルになる前に、パタニティハラスメントについてしっかりと学んでおきましょう。
■パタニティハラスメントの具体例
ウチとしては男性が育児に参加することは大賛成、と掲げる会社は多くいるでしょう。
しかしながら、どんなに立派な方針を掲げていようと、根っこの部分で偏見が取り除かれていなくては意味がありません。
育休を取ろうとする男性社員に対して何気ない言葉を発したところ、それがパタニティハラスメントとみなされてしまった、ということは十分にあり得ます。
そうならないためにもまずはハラスメントの具体例を見ながら、どういった行為がいけないのかを参照していきましょう。
実際にパタハラを経験したことがあると答えた人によると、まず育児休暇の取得自体を認めてもらえなかったという例があるようです。
社員が会社の定める福利厚生を利用するのは権利の1つですから、その利用を阻もうとするのは悪質というほかありません。
もし民事訴訟などを起こされようものなら、高い確率で敗訴してしまうでしょう。
これから休暇制度を整備しようという会社は、くれぐれも注意したいところです。
一方で、これに関してはそもそも男性が育休を取れるということを知らない会社もあるかもしれません。
男性の育児休暇取得制度は社会に根付いて間もないので、周知徹底に努める必要があるでしょう。
■育児休暇を取ると本当に出世に響く?
その他の例としては、育児にかまけていると出世が遅れる、などといった言葉を投げかけられたことのある人も多いようです。
実際にそういったデータがあるならまだしも、育児に専念している人が出世しづらいなどという話はまったく根拠がありません。
それどころか考えようによっては、育児をこなすことによって人を育成するとはどういうことか学べるので、出世したときにほかの社員よりも優れた部下を育てられるという側面さえ指摘できるでしょう。
とはいえ、ここまで露骨でないにせよ、これに近い言葉を投げかけてしまう可能性は無きにしも非ずです。
ほかのハラスメントにも当てはまりますが、さりげない言葉が相手を傷付けてしまうということは十分に考えられます。
育休を取ろうとしている男性社員に対しては、慎重な言葉遣いを心掛けるようにしましょう。
■パタハラはどうしたら防げる?
先ほども取り上げたように男性社員が育休を取れない理由として、パタニティハラスメントがまかり通っているから、というのは否めません。
にもかかわらずパタハラという概念が社会であまり顕在化していないのは、男性社員がハラスメントに対して我慢してしまうことが考えられます。
仮に育休を申請しようとしたところ上司に突っぱねられてしまったと考えてみましょう。
その時点で男性は育児休暇を取っていけないのだ、とあきらめてしまう人がほとんどではないでしょうか。
実際、ハラスメントを受けたところで誰にも相談せずそのままにしてしまう、という男性は多くいるようです。
そのため、法務としてはハラスメントを受けた際の相談窓口を用意しておくべきでしょう。
会社はパタニティハラスメントが起きたときの処置を用意している、と周知すれば、管理職に就く社員も簡単には育休を断れないようになります。
そのほか、会社全体で育休に対して理解を深めておくことも欠かせません。
ただ単に育休を取れ、と上から押し付けても、下からの理解は得られません。
人手不足に悩んでいるのに、会社の方針で男性社員が育児休暇を取ったせいで仕事が溜まってしまった、となってしまっては元も子もないでしょう。
こうなってしまったら育休を取ろうとする男性社員への対応が余計厳しくなってしまいます。
これを防ぐためには1人の社員が育休を取ったとき、どういう体制で不在を補っていくか、という仕組みづくりを進めることが欠かせません。
■育児休暇を取らせることで会社の利益につながる仕組みづくりも必要
日本の育児休暇取得率が低いもう1つの理由は、社員に休暇を取らせることで会社の生産性が下がるのでは、という懸念が挙げられます。
政府ではこれを防ぐために、育児休暇取得率の高い企業に対して助成金を給付する制度も新設しました。
こうした制度を積極的に利用すれば、男性社員も安心して育児休暇を取得できるようになるでしょう。
そのほか、会社としても1人の社員が育休を取ったところで生産性を落とさない仕組みづくりも欠かせません。
現在日本では働き方改革をすることで生産性を向上する動きが盛んになっていますが、合わせて育児休暇を取ることで生産性を向上する工夫も欠かせないのです。
一例としては、育児休暇を取った社員の仕事を別の社員がこなすことで、多方面のスキルを身に付けられるということが挙げられます。
こうした取り組みが広がっていくことによって、それぞれの社員がこれまでになかった仕事のやり方を編み出した結果、生産性が高まっていくということも考えられるでしょう。
男性の育児に対して会社全体でサポートしていくという姿勢を打ち出していくことが、結果的に双方の利益につながり得るのです。