■ブラック企業リストの概要
近年、会社でのパワハラなどによりうつ病になったり退職したりする方が増えています。
事実「ブラック企業」に当てはまる会社が実在することは確かです。
厚生労働省では、労働基準関係法令違反に係る公表事案を公開しています。
いわゆる、ブラック企業リストと呼ばれるものです。
このリストでは、さまざまな観点から見て、労働基準法をはじめとする労働基準関係法令に違反した会社名をリストアップしています。
さらにその会社で生じたブラック事案を紹介するとともに、所在地も明記しているのです。
事案例としては、「火災の起きる危険のある場所で、労働者の点火源になるおそれのある電動のこぎりを使用させた」といった危険を伴う作業が紹介されているものもあります。
ほかにも給与面での問題など、さまざまな観点から労働基準関係法令違反に当てはまるケースが挙げられます。
こうしたブラック企業リストのほかにも、ブラック企業大賞と呼ばれるランキングも発表されており、全国各地の企業がブラック会社に認定されているのです。
■ブラック企業リストの公開理由
ブラック企業リストやブラック企業大賞は、その会社名を明らかにして公開することによりいくつかの目的があります。
まず1つめに、就職活動をする方たちにブラック企業を知らせるためです。
そもそもブラック企業と知らずに面接を受けて入社してしまったために、苦しみ心身共に壊れてしまう方がいます。
初めからブラック企業を明らかにしておけば、パワハラを受けて精神を病んでしまう社員も減ります。
つまり、労働基準関係法令違反を犯している会社として、仕事を探している方たちから忌避されるわけです。
2つめに、企業間での取引に対して忠告する目的もあります。
ブラック企業と取引したことで、なんらかの被害やリスクを被る会社を減らすためです。
もちろん、すべての企業に対し、「こんなふうにブラック企業として公開されないように法務や労務面において気を付けましょう」という戒めにもなるでしょう。
多種多様の企業が存在する中で、企業側も求職者も働く人材も皆が平穏無事に活動できるよう、厚生労働省やジャーナリストによって公開されているのです。
■ブラック企業の特徴
ブラック企業大賞を決める委員会では、ブラック企業に指定されるいくつかの指標があります。
その特徴を挙げていきます。
・長時間労働や残業代未払い(求人票でウソ)
厚生労働省では、「月の残業は45時間以内、超えるようであれば労使協定を結ぶ」ということが法で決められています。
月に80時間以上の残業がある場合は、過労死ラインとされるので要注意です。
残業が多いことは大きな特徴といえますが、さらに残業代がきちんと支払われていないケースもあります。
未払いでありながら、求人票にはそのような記載はされていません。
このために、多くの求職者がブラック企業と気付かずに面接を受けてしまうのです。
・セクハラ・パワハラ・いじめ
たとえば女性社員に対して、容姿に関する嫌味を言ったり体を触ったりするのはセクハラ行為です。
また、「売上行かなければ給料カットする。辞めてしまえ」などと罵声を浴びせることや嫌がらせ行為や暴力を振るうのはパワハラになります。
中にはあからさまないじめを行う方もいるでしょう。
こうした行為は心身ともに人を傷付けてしまいます。
さらに、こうした行為について社員から相談を受けたにも関わらず、そのまま何もせず放置する・取り合わないなどの対応をした会社側にも責任が生じます。
・低賃金
仕事内容のわりにあまりにも賃金が低いことも、ブラック企業の特徴です。
みなし残業も問題となっています。
・コンプライアンス違反
コンプライアンスとは、法令遵守という意味です。
企業は、法的に決められた基準をもとに経営しなければいけません。
けれども中にはこうした規律を守っていない企業も見られます。
それがコンプライアンス違反です。
たとえば社員のプライベートな個人情報が外に漏れてしまうのはコンプライアンスに違反しています。
また建物の建築基準に違反している中での仕事なども、コンプライアンス違反に相当するでしょう。
・育休・産休などの制度の不備や有休を受けられない
有休制度を使わせてくれない会社があることも事実です。
また女性の場合に妊娠出産時の制度が不十分で、健康を害するような場合もブラック企業に値します。
・労組への敵対度
労働組合からの要求を受けないような会社の態度は良くありません。
・派遣差別や派遣依存度
派遣社員と正社員の差別化が明らかであることは、人権を傷付けます。
たとえば正社員は会社の文房具類を使えるのに派遣社員は使えないといった事例があります。
また、嫌な仕事を派遣社員に丸投げするという派遣依存も大きな問題です。
・社長がカリスマ的な存在でワンマン経営である
社長の考え方や活躍ぶりに憧れて企業を選んで、入社するという方も少なくありません。
創業者精神が受け継がれている企業や社長の考え方が浸透している企業は、社員を家族のように大切にする企業もある一方で、社長がカリスマ的な地位を築いてワンマン経営を行っているケースもあります。
すべてがトップダウンでほかの意見を聞き入れない、有無を言わさず命令に従わせる、自分のやり方にそぐわない人間は左遷するなどワンマン経営をしている社長の企業はブラック企業となる可能性が高まります。
・社是や社訓が熱すぎる
入社意欲満々で入社したばかりの頃は、かっこいいと憧れた社是や社訓も、実際に仕事をするようになり、よく考えてみるとおかしいと気づかされることがあります。
「粉骨砕身」「24時間働け」「死ぬ気になって働け」など極端な社是や社訓が掲げられていることはありませんか。
そのくらいの気持ちで働けという精神論だろうと思っていたのに、実際に仕事を始めると本気で24時間働かされることや契約が取れないなら死ねと叱咤される恐ろしい企業であることもあるため注意が必要です。
過去のブラック企業における自殺の事例で、厚生労働省の調査でもこうした事実が明らかになっています。
・体育会系の社風である
体育会系だから悪いというわけではありませんが、ブラック企業は体育会系の社風であることが少なくありません。
社長や経営幹部をはじめ、上司や先輩の命令や指示に従うのは当たり前で、歯向かうことや意見をすることは許されない雰囲気があります。
間違った方向性に進んでいる場合や同僚が辛い目に遭っていても、何も言えない状況で精神的にも体力的にもまいってしまうケースが多いです。
社内の法務部門や労務部門もほぼ機能していません。
・成果報酬である
これまでの日本企業では年功序列型で右肩上がりにアップする賃金体系が採られていましたが、近年は欧米型に倣い、年齢を問わず、実力や成果を評価する賃金制度を導入する企業も増えています。
成果主義というと聞こえはいいですが、ブラック企業においては、完全成果報酬主義で、契約が取れない、仕事で成果を出せないとほとんど賃金が支払われないような、従業員を馬車馬のように使う企業があるので、言葉の響きに惑わされないようにしましょう。
■企業が気を付けるべき点
働き方改革を取り入れる企業も増えています。
その反面、退職した社員が告発して、労働基準法に違反している事実が発覚するようなケースも少なくはありません。
企業としては、ブラック企業とみなされてしまうと大切な人材を失うだけでなく、企業として大きな信頼を失うことになります。
企業の安定した将来のためにも、法務面と労務面を今一度見直すことが必要といえそうです。