■従業員が不正を通報できる仕組みは大切
近年は企業運営の透明さが求められる時代となりました。
たとえば企業がなんらかの不正に手を染めているとき、それを従業員が通報できるような仕組みを整えておかなければなりません。
このような仕組みがなければ不正は野放しにされてしまうでしょう。
そのほか、正義感に駆られて通報した従業員が損をすることのないように彼らを保護するような制度も作っておく必要があります。
また、こうした窓口は企業にとってもデメリットばかりではありません。
通報ができる窓口を設置しておくことで透明性の高い経営を行っていると評価されやすくなります。
最近では有名な企業のほとんどが設置するようになった通報窓口ですが、実は2種類あるのです。
1つは内部通報窓口で、社内に設置されている窓口がそう呼ばれています。
もう1つは外部通報窓口で、これについては聞き馴染みがない方も多いのではないでしょうか。
しかしながら、その成り立ちを見ていくと内部の窓口以上に重要な役割を持っていることがわかります。
今回はこの外部通報窓口について詳しく見ていきましょう。
■外部通報窓口とは何?
外部通報窓口とは、読んで字のごとく会社の外部に設置されている通報窓口のことです。
内部窓口が会社が雇用している社員によって運営されているのに対して、外部窓口は基本的に社外の役員によって運営されています。
一般的には会社と契約している弁護士によって運営されていることや通報窓口業務を専門とする会社に委託して運営されていることが多いでしょう。
それでは、なぜこのような窓口が設けられているのでしょうか。
そもそも内部通報窓口については以前からさまざまな問題点が指摘されていました。
まず社内に設置されているということは、窓口に勤めている従業員と通報を行う従業員の間に少なからず面識が生まれかねません。
面識のある者同士の間で社内の情報のやり取りを行う際は、なんとなく気兼ねしてしまうものです。
あるいは電話口にて口頭で内部通報を行ったとしても、声で通報者の素性が明らかになってしまう、という可能性もあります。
これによって結果的に内部通報が抑制されているのではないか、という問題点がありました。
また、窓口を受け持つ社員が、通報を行った従業員のプライバシーを本当に守ってくれるかという懸念もあります。
匿名を保証してくれるはずだったのに、メディアでニュースになるころにはいつの間にか通報者の名前が知れ渡っていた、というケースは少なくありません。
そのほか、内部通報は内容によっては会社の経営状況を一気に傾かせかねない手段です。
そういった通報を社内の担当者が受け取ったとして、すぐさま対応に移るのはなかなか難しいでしょう。
現に内部通報が行われたものの、経営状況の悪化を懸念して秘匿された通報も少なくありません。
このような問題点を改善してくれる制度として、社外の人間が運営している通報窓口の設置が必要になったという背景がありました。
■外部情報窓口のメリットは?
社外の人間によって運営されている外部通報窓口の利点は、なんといっても従業員が通報しやすいということにあります。
会社の経営に関わっていない人間が通報を受け取りますから、スムーズに外部に通報内容が知れ渡りやすいでしょう。
匿名性も確保されていますから、報復を受けるような心配もありません。
また、外部情報窓口を設置することは企業にとっても利点があります。
というのも、内部通報制度を悪用して現在の経営陣を下ろす動きを封じることができるからです。
もし通報者と窓口の担当者が結託して嘘の通報が行われたとしたら、企業のイメージに深く傷が付いてしまうでしょう。
その点、外部通報窓口ならば公正な目で通報内容を判断してくれるので、場合によってはそれは通報するほどの内容でもない、と判断してくれることがあります。
そのほか、弁護士などが通報窓口を運営していれば、スムーズな対応をアドバイスしてくれるという利点も忘れてはいけません。
内部通報が行われた場合社内でどう対応したら良いか決めかねている間に、通報者がしびれを切らして外部に情報をリークしてしまう、ということも起こってしまいます。
その点、弁護士が通報を受けた際は、この通報にはこのように対応したほうが良い、と助言してくれるでしょう。
このことによってすぐさま通報に対応でき、結果的に損失を最小限に抑えられやすいのです。
■外部通報窓口を利用できる要件
一般的に内部通報というとすでに行われた不正を通報するというイメージがあります。
しかしながら、内部通報はこれから行われようとしている不正を暴くという目的でも利用できるのです。
たとえば会社で上司から不正経理の指示が行われたと仮定してみましょう。
経理を担当する従業員は、当然ながら罪悪感のあまり指示に従うのを躊躇するはずです。
このとき、内部通報はすでに行われた不正のみを扱う、と決まっていたとしたら不正を防ぐことはできません。
これについては外部通報も同様で、すでに行われた不正、今まさに行われていようとしている不正、どちらも窓口に駆け込むことができます。
■外部通報と内部告発はどう違う?
マスコミによっては企業の従業員から出てきた不正の暴露について、内部告発と呼ぶことが少なくありません。
しかしながら内部通報と内部告発、そして外部通報は厳密に言えば違います。
内部通報と外部通報はこれまでも見てきたように、会社が公式に設置している通報窓口を通じて行われた通報のことを指します。
一方で内部告発は会社がそもそも通報窓口を設置していないときに起きるものです。
通報窓口が設置されていない場合、通報者は新聞社やテレビ局などのマスメディアに頼らざるを得ません。
もちろん通報窓口がないよりはずっと良いのですが、こうした内部告発は警戒しなくてはならないでしょう。
というのも、マスメディアによっては通報者に報酬を支払って情報を買っているところもあるからです。
もし通報内容が誤っている者だった場合、企業のイメージ悪化は避けられません。
こうした事態を防ぐためにも、内部告発ではなく通報窓口を設置しておく必要があるのです。
■外部通報窓口が扱う通報案件
かつては内部通報というと企業が不正を行ったときになされるもの、というイメージが一般的でした。
しかしながら、近年はこうした不正にとどまらずさまざまな通報が窓口に寄せられるようになっています。
代表的なものではパワーハラスメントやセクシャルハラスメントが挙げられるでしょう。
上司から理不尽な扱いをされる、だとか、性別を理由に不当な処遇を受けている、といった通報は年々増えつつあります。
そのほか、労働基準法関連の通報も増えてきているのです。
残業代の未払いや有給休暇が取れないことなど、労働基準法を無視した経営を行っている企業は後を絶ちません。
一方で従業員の間ではこうしたハラスメントの問題や労働環境の改善といったことは通報できないのではないか、といった誤解も広がっています。
通報窓口を設置する際は、どういったことが通報できるのか、と従業員に周知することも忘れないようにしましょう。
■外部通報窓口を利用する際の注意点
外部通報窓口のメリットの一つに、匿名性が担保されている、ということを紹介しました。
一方で、この匿名性が逆効果になる、という例も指摘しておかなければいけません。
たとえば、パワーハラスメントを受けている従業員が外部窓口を利用したとしましょう。
当然ながら通報を受けた担当者は企業に向けて改善するよう忠告します。
しかしながら、このときどの社員がどの上司にハラスメントを受けているか明らかでなければ、企業はどう対応して良いものかわからなくなってしまうでしょう。
もちろんハラスメントを告発するには勇気が必要です。
もし通報したことがバレてしまったら、上司からの対応が今以上に悪くなってしまうのではないか、と懸念するのはもっともでしょう。
とはいえ、現状を解決したいと願うなら、時には実名でしっかりと告発しなければいけません。
また、通報を行う際はしっかりとした証拠を提出する必要があります。
社内で起きている不正を通報する際は、その証拠となる書類のコピーを確保するようにしましょう。
またハラスメントなどを通報する際は、テープレコーダーやカメラなどを使ってやり取りを記録しなくてはいけません。
こうした証拠がない場合、通報窓口では公平性を保つことができないため対応しようがなくなってしまいます。
仮に通報を受け取ってもらったとしても、ハラスメントの当事者が通報は嘘だ、としらばっくれてしまう可能性も否定できません。