■テレワークは簡単に導入できる?
通勤ラッシュの緩和にも貢献でき、通勤時間をカットして家族や自分の時間も取りやすくなる在宅勤務が働き方改革の一環としても注目を集めています。
少子化で人材不足に悩まされる企業も増えている中、遠方に住む優秀な人材を確保できるメリットもあります。
また、今話題の新型コロナウィルスの感染拡大が問題となった折には、満員電車を避け、多くの人が集まる職場での感染予防策にと、すぐに在宅ワークに切り替えた会社もありました。
東京オリンピックに向けては都心部の企業を中心に開催期間中、通勤をせずに在宅ワークに切り替えるよう、呼びかけも行われています。
今の時代、多くのオフィスワーカーが自宅にもネット環境を有し、パソコンなども保有しているので、行おうと思えば、すぐにでも導入できそうな企業もあるかもしれません。
その場合、環境さえ整えばすぐに導入できるのか、労働法制との関係から考える必要もあります。
■会社での定めは必要なのか?
テレワークは就業規則を変更しなくても導入することが可能ですが、通信費やパソコンなどの機器を従業員各自が負担する場合や、在宅勤務に合わせて通勤手当そのほかの変更をする場合は就業規則を変更した上で、所轄の労働基準監督署への届出をしなくてはなりません。
多くの企業ではネット回線などは各自の家庭で使っているものを利用してもらうことや、パソコンも各自の私物を使ってもらうケースが多いのではないでしょうか。
また、パソコンを所有していない人には会社がノートパソコンなどを支給する場合、従業員によって違いが生じてしまいます。
在宅勤務時と出勤時の通勤手当支給の有無や、在宅勤務手当など新たな手当を導入する企業もあるかもしれません。
手当などの変更や新設はもちろんのこと、従業員各自に在宅勤務にあたってのルールを明確化して、納得のいく安心の状態で仕事をしてもらうためにも就業規則に定めておくことが大切です。
■テレワーク中の通勤手当はどうなるのか
通勤手当は多くの企業やお店で正社員をはじめ、アルバイトやパートなど直接雇用契約を結んでいる従業員に支給されています。
定期代を基準に上限額を決めているケースや上限なしで定期券代を支給するケース、アルバイトなど勤務日数が少ない従業員には交通費の実費を支払うケース、マイカー通勤者が多い企業では距離やガソリン代にかかわらず、一律額を支給するといったケースもあります。
では、テレワークにより通勤しなくなった場合、通勤手当はどうなるのでしょうか。
この点、賃金規定に「通勤手当を支給する」と規定されていれば、原則として通勤手当の支払いが必要となります。
・定期券との関係
企業においては割安となる半年分の定期券の金額を支給するといったケースも多いですが、テレワークにより、基本的に出社しなくていいとした場合、定期券を払い戻すこともできます。
すると、払い戻せた金額分は通勤手当とダブル受給になってしまい、従業員が得をすることとなります。
一方、在宅勤務は緊急事態宣言中だけとか、週に数回は出勤が必要といったケースではそのまま定期券を保持し、払い戻しは行わない方が多いのではないでしょうか。
この場合は、在宅勤務中の通勤手当は差し引くなどとされれば、定期券を購入した金額との差額で従業員が損をしてしまうことになります。
通勤手当を支給するとしながら、従業員に負担が発生するのは避けるべきです。
・テレワーク導入に伴い就業規則の見直しを
無用なトラブルを避けるためにも、テレワークの導入に当たっては就業規則の見直しや変更、条項の追加などが必要です。
在宅勤務が基本となって通勤が一切必要なくなれば、通勤のための費用は発生しませんが、その代わりとして自宅での通信費用などが発生します。
必要がなくなる費用と新たに発生する費用の負担を明確にし、具体的に規定しておくことが求められます。
定期券の場合、定期券を購入するタイミングと払い戻すタイミングで戻される金額が異なるため、払い戻しをする場合のわかりやすい精算規定を設けることが必要です。
また、在宅勤務中も週に1回は出社する場合や必要に応じて出社するケースでは、その場合の交通費は実費払いとするなど定めておかなくてはなりません。
コロナ感染拡大によるテレワークの導入は急遽の自体であったため、就業規則の改定はすぐには間に合わないとは思いますが、働き方改革が求められる時代ですので、今後も見据えて就業規則を改訂するのがおすすめです。
法務部門と労務部門で連携し、テレワーク導入によって生じる変更点を網羅できるような見直しを行いましょう。
■どのように定めるのか
既存の就業規則の改定や条項の追加という形でもいいですし、テレワーク勤務規則など別途、個別の規則を定める方法もあります。
定めるべき内容としては、従業員が常時10人以上の職場の場合、次のような項目が必要です。
在宅勤務を命じるための規定、在宅勤務時専用の労働時間を設ける場合には労働時間に関する規定、そして、通信費や機器などの負担についての規定です。
また、在宅勤務を行う従業員に対して、社内教育や研修制度を定める場合も規定しておく必要があります。
従業員数が少ないなどで規則の作成や届出義務がない企業においても、こうした項目に関して労使協定を結ぶことや労働条件通知書で個別に従業員に通知することが必要です。
■テレワーク時の労働環境について
在宅勤務は通勤時間がカットでき、自宅で家族と過ごしながら仕事ができるなど、働き方改革につながるといわれています。
育児や介護などとも両立しやすく、仕事を辞めなくても働けるメリットがあります。
一方で、仕事が忙しい場合や家族がいない独身者などの場合、際限なく働いてしまうケースも少なくありません。
家に閉じこもりがちになり、運動不足など心身に不調をきたすおそれもあります。
出社時間や退勤時間の定めがある場合や家に帰るという意識が働く職場での勤務とは異なるため、オーバーワークや健康問題が生じないよう、企業がルールを設けて労働管理していくことが大切です。
在宅勤務をはじめ、モバイルワーク、サテライトオフィス勤務のいずれの場合においても労働基準法などが適用されますので、労働契約や規則にルールをしっかりと定めておくことが求められます。
労働契約においては就業の場所を明示する必要があるため、在宅勤務を導入する場合は、就業場所として従業員の自宅を明示しなくてはなりません。
労働時間を適正に管理するため、従業員の労働日ごとの始業時刻と終業時刻を確認して記録する必要もあります。
職場と異なりタイムカードを打つ、実際に対面で時間を記録し合うといったことができないので、企業のサイトにログインした時間とログアウトした時間や、メールや電話による出勤、退勤報告、勤怠管理ツールの導入など、在宅勤務時の出退勤管理の方法を用意しなくてはなりません。
職場に出社する従業員と在宅勤務をする従業員に異なる業績評価制度や人事管理制度を適用する場合には、それを明示してあらかじめ説明しておくことも大切です。
■テレワークの円滑な導入に向けて
働き方改革や通勤ラッシュの緩和促進につながり、労働環境の改善にも社会環境の改善にも資するといわれる在宅勤務ですが、スムーズな導入と円滑な運用を図る上では、企業の一存で進めるのではなく、現場で働く従業員とのコンセンサスも重要です。
労務部門による職場環境の改善に向けてのヒアリングや、法務部門による法的観点からの労働環境整備を踏まえながら、従業員も納得のいく制度を準備しましょう。