コラム

企業は利用規約違反のユーザーにどう対処できるか?法廷措置も含めて解説

■利用規約違反をしたユーザーにはどう対処すべきか

インターネット上のサービスにおける利用規約違反に関して、ユーザー側からではなく企業側から見た対処法について解説します。
消費者向けサービスを提供している企業にとって、ユーザーの規約違反行為は頭の痛い問題です。
対処が遅れると、ルールを守って利用している多くのユーザーに迷惑がかかりますし、不快や不満から大量離脱にもつながりかねません。
企業からすればそのために最初に規約を提示しているのだから、問答無用で制裁を与えれば良いと考えるでしょう。
ただ実際には制裁がどこまで認められるのか、法的措置も含めて慎重に検討すべきです。
利用規約違反のユーザーに対する制裁行為は、「消費者契約法」といった民法の定型約款との関係を考慮したうえで、適切に実施する必要があります。

■どのような制裁でも認められるわけではない

企業側が最初に利用規約を提示しておけば、違反者にどのような制裁でも与えられるというわけではもちろんありません。
当然ながら制裁の内容をサービス提供側が勝手に決められるわけではなく、法律上認められる範疇である必要があるのは当然です。
また制裁を与える際には利用規約上だけでなく法的根拠も必要となり、それなくして実行すると逆にユーザーから訴えられかねません。
たとえば重い制裁であるアカウント停止などは一方的な契約解除行為であり、民法における契約解除規定に則り実行される必要があります。
またそれ以上に重い損害賠償などは、民法の損害賠償規定で認められる範疇に限られます。(民法第416条)
サービス提供側と利用者側には消費者契約法が適用されますので、いかに規約に定めていても、事業者側が消費者の利益を一方的に害する「不当条項」は無効となることを覚えておきましょう。

・民法の定型約款に関する規定

2020年4月1日施行の改正民法では、「定型約款」の規定が新設されました。
定型約款とは具体的に、以下の2点を満たすものが該当します。

・不特定多数の者を相手方とする取引

定型取引(内容の全部または一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的なもの)において、契約の内容とすることを目的としている、つまりほとんどのオンラインサービスにおいて、利用規約が定型約款にあたると考えて間違いありません。
そしてこの定型約款には「消費者の利益を不当に害する条項」を盛り込んではいけないことになっています。
もし不当な条項が中に入っていても、それは無効となります。
たとえユーザーが利用規約に同意したとしても、それには関係なく、不当条項に関しては同意はされていないものとみなされるのです。
不当条項の定義は、消費者の権利を制限するもの、義務を加重するものであり、「信義則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」です。
この2点に該当する場合、いかに利用規約に掲げようとも、ユーザーが同意していようとも、法的に同意はされていないものとみなされます。

■禁止事項を定めておくべき理由

利用規約の作成は慎重に行う必要がありますが、特に禁止事項は明確に定めておく必要があります。
ユーザーは基本的に利用規約に同意したうえでサービスを利用し始めますが、中でも特に意識してもらいたいのがやってはいけない行為です。
たとえば、法令や法令上拘束力のある行政措置などに違反する行為をしない、公的秩序や善良の風俗を害するおそれのある行為はしないといった内容が代表例です。
著作権や商標権、知的財産権などの権利を侵害しないことも重要ですし、虚偽の情報を流布させる行為も明確に禁じておくべき事項となります。
こうした禁止事項をあらかじめ明確にしておくことで、トラブルや違法行為を強く抑制することができるでしょう。
そして多くの場合、制裁措置はこうした禁止事項に違反したユーザーに対して実行されることになります。
たとえば多くの企業が段階を踏んで制裁措置を設ける手法を採用していますが、警告を送付し、その後ユーザーのアカウント停止、サービス提供停止を踏まえ、最終的には資格の剥奪(再登録の禁止)に至ります。
違反の程度にもよるため、制裁は段階を設けることでバランスを取る手法が主流と言えるでしょう。
利用規約上は、サービス提供側が「本人に通知なく一方的にアカウントを停止できる」としていることが多いですが、実際にはワンミスアウトではなく、猶予期間を設けているのが実情です。
これは違反行為に対して重すぎる制裁措置だと捉えられた場合、前述の通り制裁措置の有効性が認められない可能性があることが理由です。

■利用規約違反者への対応事例

実施には慎重な対処が必要となる制裁行為ですが、もちろん違反者をそのまま放置していて良いわけではありません。
ほとんどの利用者はルールを守ってサービスを利用しているわけですし、そうした優良なユーザーの不満を煽るような対応は、企業の信頼を損なう結果になるからです。
各企業が主に採用している2つの制裁事例についてまとめてみましょう。

・アカウント停止

ユーザーにとって非常に困るのがアカウントの利用停止です。
まず警告を発するケースが多いですが、それにもかかわらずルール違反を繰り返す場合、サービスを利用できなくする制裁を与えます。
ただパターンとして、期間限定にする場合と永久に停止する場合とに分けることができます。
当然最も重い制裁は永久利用停止処分であり、そうなれば当該ユーザーの蓄積データもすべて抹消されることになるため、厳しい制裁と言えるでしょう。
不正利用のアカウント永久停止措置の実施は個別連絡はせず、サービスにおいて公的なインフォメーションがなされることが多いです。
ただこの措置は課金システムを採用しているサービスにおいては特にユーザー側の不利益が大きくなるため、サービス提供側は慎重な判断が必要です。

・損害賠償請求と違約金請求

損害賠償請求もしくは違約金請求においては、ユーザーが利用規約違反をしたことによって、企業が実際に損害を被った際に実行されます。
つまりユーザーに対して実損害ベースで請求を行うことになり、根拠ある数字を提示することで成立する可能性が高いでしょう。
一方で違約金に関しては、実際に生じた損害金額とは関連しません。
金額はあらかじめ定めた違約金支払条項に従って請求することになりますが、消費者契約法と照らして高額であると判断されると制約が課される場合があります。

■意外!?無効になる条項とは

企業が利用規約を定める際、確実に押さえておくべきなのが不当条項規制です。
前述した通り、消費者契約法上の不当条項規制と利用規約との関係を整理しておかないと、定めた条項自体が消費者契約法により無効になるおそれがあります。
サービス提供開始前に確認することはもちろんですが、規約は定めた後も定期的に確認してメンテナンスしておきましょう。

・事業者の責任を免除する条項

非常に多くの企業が「事業者側の責任」を免除する条項を盛り込みがちですが、実はこれは無効となります。
たとえば事業者側が債務不履行になった、もしくは不法行為を起したことでユーザーに損害が及んだ場合、これを免除するといった内容です。
企業としては保険のために、こうしたときにユーザーに生じた損害については一切責任を負わないといった文章を盛り込みがちですが、消費者契約法上ルールに沿いません。

・ユーザーに対する損害賠償

規約違反のユーザーに損害賠償を請求する条項を盛り込む企業も多いですが、損害賠償や違約金の額は社会通念として平均的な額が上限となり、それ以上は無効となります。
また金銭債務の不履行に関して遅延損害金を請求する場合、年14.6%が上限となり、それ以上は無効です。
そもそも社会的にも非常に悪質だとされる行為においては別としても、実際には利用規約の違約金条項は機能しないと考えたほうが妥当です。

・ユーザー利益を一方的に害する内容

先にも触れましたが、消費者契約法10条では消費者の利益を一方的に害する条項は無効としています。
そのため、多くの企業が利用規約に盛り込みがちですが、事業者側がいつでも自由にユーザーのアカウントを停止する権利を持つといった内容は実は無効です。
特に正当な理由なく催告もせずにいきなり停止することはできず、事業者側が証明責任を放棄することもできません。
ユーザー側に重すぎる証明責任を課す規定も無効となるため、慎重になるべき内容と言えます。
特にこの消費者契約法10条の範疇は広く、規約に関しては全般的に関わってくる条項と言えるでしょう。
弁護士がレビューし、総体的に確認することが望ましいと言えます。

■利用規約違反のユーザーへ制裁する際に注意すべきこと

ここまで解説してきたように、あらかじめ同意を得ているからという理由だけで、サービス提供側が自由に制裁を与えることはできません。
違反ユーザーが出た場合、まず法令上の根拠があるかを確認し、消費者契約法などに違反する制裁でないかについても確認しましょう。
慎重を期すためには、多くの企業が実施しているように段階的に行うのが無難です。
なんの警告もなしにいきなりアカウントを永久停止するような措置は、法的措置として見たときに重すぎると判断されます。
社会的に見てもよほど悪質だと認められる場合は別ですが、処分については段階を踏みましょう。
そしてサービスである以上、ほかの多くのユーザーの目も気にする必要があります。
ルール違反を放置するのも不満につながりますが、軽微なルール違反に厳重な制裁を与える対応もまた不満につながります。
多くの優良なユーザーが納得できる措置なのか、法的措置としても妥当なのかをよく考慮し、ユーザー離れにつながらないよう配慮することが重要です。

・制裁方針は弁護士に相談を

利用規約違反のユーザーにどのような制裁を与えるべきか、企業にとっては非常に悩ましい問題であることは否めません。
企業にとっては正当な判断だと思われても、制裁を与えたことで自社が社会的信用を失うような結果を招いては逆に大損害です。
判断が難しい場合はオンラインサービスに強い弁護士に相談し、有益なアドバイスを得ることも検討しましょう。
まず利用規約の内容確認から行い、法律との整合性を取りながら適切な対処ができます。

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