■事業譲渡をあらかじめ知り失敗を避けましょう
M&A手法の一つとして知られている、事業譲渡。
事業譲渡には、メリットだけではなく、デメリットもありますので、事前に把握しておくと、失敗を避けられるでしょう。
ここでは、売り手企業と買い手企業のメリットとデメリットについて、それぞれ解説します。
■事業譲渡とは
事業譲渡とは、簡単に言うと、一部の事業を売買するという、M&A手法の一つです。
通常譲渡というと会社全体を売却するというイメージがありますが、事業譲渡は会社全体ではなく、「一部の譲渡」という点に、大きな特徴があります。
売り主は、事業の一部を手放すため、会社の経営権は放棄しません。
売り手は、事業譲渡の対価として、主に現金を受け取ります。
しかし、受け取るのは経営者本人ではなく、会社になるのです。
・会社分割との違い
「会社分割」とは、事業の一部を整理し、時には社内で独立させることを言います。
事業を外部に譲渡するわけではありませんので、この点で事業譲渡とは区別されるのです。
・事業承継との違い
言葉は似ていますが、「承継」と「譲渡」という点で意味が異なりますので、注意が必要です。
事業承継は、その事業を継続させるために、新たな後継者に引き継がせることです。
事業承継には、会社の売却も含まれますので、後継者を必要とせずに、しかも事業の一部を売却する事業譲渡とは異なります。
■売り手企業のメリットとデメリット
売り手企業側から見た、メリットとデメリットについてご紹介します。
・メリット
売り手企業にとって、事業の一部のみを譲渡可能というシステムは、事業譲渡の最大のメリットと言って良いでしょう。
売却するのは会社の一部だけですので、会社を潰すことなく、そのまま経営が可能です。
特に不採算事業を生産したいというときは、ぴったりの方法になります。
また、売り手側はどの事業を譲渡したいのか、選択できるというのも、メリットと言えるでしょう。
売り手側は、切り離したい・残したいの選択ができますので、事業譲渡は自由度の高いM&A手法です。
事業を譲渡する際、考慮するのは従業員の引き継ぎです。
事業全体を譲渡する場合、会社とともに従業員も新しい経営者に引き継がれます。
しかし、事業を一部譲渡するという方法を選択すると、従業員をそのまま残すことも可能になるのです。
特に中小企業にとって、事業を譲渡する方法は、メリットが大きくなります。
個人事業主や中小規模の企業にとって会社を売却すると、まとまったお金は手元に残りますが、再び会社を立ち上げて、育てる必要があります。
しかし、一部を譲渡することで、会社を継続させながら、売却して得たお金を、新しい事業の資金として残せるのです。
事業譲渡は大企業ではあまり実施されず、中小企業でよく用いられていますが、規模が大きな会社が行うと、手続きが複雑になり、さらに納める税金が大きくなります。
中小企業ではこれらの負担が軽くなるため、メリットになる傾向があります。
・デメリット
事業譲渡では、取引先や従業員と再契約を結ぶ必要があります。
再契約を結ぶ取引先や従業員の数が多ければ多いほど手間とコストがかかります。
仮に、譲渡に反対する従業員が出た場合、交渉が難航して、ますます負担になるでしょう。
事業の一部を譲渡する際、競業避止義務が課されます。
これは、譲渡した事業と同じ事業は行わないという意味で、契約内容によっては、譲渡した事業と同一の事業ができなくなるのです。
競業避止義務は法的拘束力がありますので、違反すると罰則の対象になります。
また、会社法では譲渡した同一の事業を、同じ地域(市町村や隣接するエリア)20年間行ってはならないとしているのです。
事業譲渡して得たお金は譲渡益とみなされ、法人税が課されます。
事業の規模にもよりますが、多額のお金が動いた場合はその分税金も高くなりますので、忘れないようにしましょう。
■買い手企業のメリットとデメリット
買い手企業にも、事業譲渡によるメリットとデメリットがあります。
・メリット
会社全体を買収した場合、資産や従業員に加えて、負債を背負うことも珍しくありません。
しかし、部分的な譲渡であれば、手に入れるのは必要としている事業のみになりますので、リスクを抑えて都合の良い取引ができます。
もし、買い取った事業が成長すれば、大きな利益をもたらしてくれるでしょう。
事業譲渡には、事業承継などにない、節税効果が期待できます。
通常買い手企業は、その事業の買取価格に、将来見込める利益を上乗せして提示します。
この上乗せされた金額のことを「のれん」と呼び、のれんとして計上した部分は、損金(5年間償却)として計上されるのです。
再契約を結ぶという手間はあるものの、買い手企業にとって、事業を部分的に買い取ることは、必要な従業員や取引先を確保できることにつながります。
一から従業員を集めたり、取引先を増やしたりすることは、時間がかかりますが、事業譲渡によって新規開拓するという手間を省くことが可能です。
新規事業において、必要なスキルや技術を取得する手間も省いてくれるのが、買い手にとって部分的に譲渡するメリットになります。
一つの技術を得るのに何年も費やすというのは珍しくありません。
しかし、技術革新が目覚ましい現代では、身につけたと同時に新たな技術が登場した、ということも少なくありません。
事業とともに、すでに開発された技術を得ることで、事業展開がスムーズになります。
・デメリット
これは売り手のデメリットにもなりますが、新たに譲渡した事業では、取引先や従業員と、再契約をする必要があります。
規模が小さく、すべての人が快く再手続きに応じてくれれば問題ありませんが、中には再契約の内容に納得できない、という人が現れたり、再契約を断られたりすることも考えられるのです。
引き継いだ事業の種類によっては、行政機関などで新たに手続きをする必要が出てきます。
不動産業や私立学校、建設業など新たな手続きが必要な業種は多岐にわたりますので、事前に確認するようにしましょう。
新たに得た事業を、会社の一部として組み込んだ場合、うまく溶け込んでくれれば問題ありませんが、場合によっては時間がかかることや期待以下のパフォーマンスに終わってしまうこともあります。
■メリットやデメリットをしっかりと把握しましょう
事業譲渡には、買い手と売り手それぞれにメリットとデメリットがあります。
特徴をよく把握して、メリットが活かせるような取引を目指しましょう。
難しいようであれば、弁護士など専門家に相談することをおすすめします。