コラム

企業から従業員への休業補償はどこまで対応すべき?

■企業は従業員にコロナの休業補償をすべきか?

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、政府や自治体の休業要請に従い休業を余儀なくされた企業が多数あります。
経済が落ち込み経営状態の悪化が財政を圧迫する中、従業員に対してどのような休業補償を行わなければならないのか、経営者や企業法務は頭を抱えているところでしょう。
今回のように、新型コロナウイルスによる影響が理由の休業要請では、賃金は100%支払うべき義務は必ずしもありません。
なぜなら企業の故意・過失による行為でもなければ、信義則上これと同視すべき事由にもあたらないからです。
ただし、就業規則などで休業の場合に支払う賃金のパーセンテージなどを定めていた場合は、その限りではありません。
たとえば「平均賃金の80%」など具体的に支払うことを明示していた場合には、当然規定に従い80%を支払うべきです。
注意すべきは、新型コロナウイルスの影響ではなくほかの事由による休業の場合です。
万が一、この状況を利用し、実質的には違う目的で休業命令を出したと訴えられ認められた場合には、企業の故意・過失とみなされ賃金の100%を支払うべきという判決が下される可能性があります。

 

■いわゆる休業手当は支払うべきか?

休業手当というのは、企業の経営・管理上の障害が理由で休業となった場合に、従業員へ平均賃金の60%を支払うという義務です。
これは労働基準法に定められていることですが、実はこちらの判断が非常に難しいのが事実です。
新型コロナウイルスの影響で経営不振に陥ったことが原因で、休業せざるを得なくなるという状況はどこでも十分に起こり得るでしょう。
この場合、企業の経営・管理上の障害が理由となり、従業員に平均賃金の60%、もしくは就業規則などに定めたパーセンテージで賃金を支払わなければならなくなる可能性は高いです。
ただ今回に関しては、一企業が経営的な障害を受けたといった状況とは明らかに異なります。
政府や自治体が外出自粛を求め、企業に対しても休業を要請し、感染拡大防止対策を強力に推し進めた結果によるものですので、企業もやむを得ずという図式があるからです。
また多くの企業がテレワークなどで従業員の不利益が生じないよう努力していますので、こうした従業員の不利益回避の企業努力を行っている実態があると、従業員側も納得できる可能性があるでしょう。
この点は労働者側ともよく協議し、説明責任を果たしながら企業ごとに対策を検討する必要があります。

 

・自主休業に補償は必要か?

たとえば国や自治体から休業を要請されていない業種が、自主的に休業した場合、休業補償は必要なのでしょうか。
結論からすれば、単純にそれだけで休業補償義務が発生するとは限りません。
ただこれもケースバイケースで、休業せずともテレワークなどで従業員に勤務させられたと判断されれば、休業命令は企業側の都合であり、休業補償をすべきであると判断される可能性はあります。
つまりすべてを新型コロナウイルスのせいにして、休業補償はできなくても仕方ないと逃げるわけにはいかないと認識する必要があるでしょう。
まずはテレワークなどによる勤務ができるか検討すること、従業員への説明責任を果たし十分に協議すること、安易に無給の休業命令を出さないことが重要なポイントです。

 

・罹患した従業員に関しては?

自社の従業員が新型コロナウイルスに感染した場合、原則、休業補償は必要ありません。
都道府県知事が行う就業制限に該当する休業の場合には、原則企業には責任がないからです。
当然、休業補償をする必要はないでしょう。
当人に対しては、被用者保険の要件を満たせば傷病手当金が支給されることを通達してください。
また従業員が、発熱などの症状で自主的に休んだ場合は通常の病欠扱いとなります。
ただ当人が無症状で職務も可能であるとしても、企業側が念のために休業させたい場合には、企業が休業手当を支払う必要があります。

 

■企業努力も含めケースバイケース

結論からすれば、新型コロナウイルスの影響による休業補償をすべきかどうかは、合理的な理由の有無、企業努力の有無によりケースバイケースというのが実情です。
結局一企業の問題ではなく、国や世界レベルで経済的負担をどのように分担するかの話になりますので、結局一人ひとりが自分の負うべき負担を考えなければなりません。
また、企業と一括りにすることもできず、経営状況や業種によっても大きく異なりますし、逆に収益の上がっている業種や企業もあります。
従業員への説明責任を果たしたか、きちんと協議をしたか、従業員が不利益を回避できる努力をしたかという要素に基づき、事情を勘案して判断すべき内容となります。
企業の経営者や法務部門においては、こうした情報を取りまとめ、顧問弁護士などと相談する必要があるでしょう。

 

■企業内での対応には統一を

注意すべきなのは、グループ企業内などで従業員への対応がマチマチになることのリスクです。
たとえば一部では休業命令を出したうえに休業補償は一切行わないかと思えば、同じグループ会社ではテレワークなどを実施し、賃金も100%支払っているような場合です。
こうした大きな対応の格差が生まれると、大問題に発展する可能性があります。
また正規雇用労働者と非正規雇用労働者とで格差が生じるといった、対応の差別も懸念されるでしょう。
第三者が見てもそれが妥当だと判断できる合理性があれば別かもしれませんが、各組織が独自判断でバラバラに動き出すようなことのないよう、中枢がコントロールしなければなりません。
特にパート・アルバイト、契約社員、派遣などの非正規雇用労働者や有期雇用労働者、派遣労働者などに対しても、法律では正規雇用労働者と同様の休業補償が必要と明示されています。

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