■これからの時代は電子契約の時代?
現在、企業において導入の検討が進められている次世代システムの1つに電子契約書があります。
IT化やデジタル化が進む中、国においても法制度の整備などを進めており、安全かつ効率的に契約を行い、ペーパレス化を進められると注目を集めているものです。
これからの時代に普及促進が期待される電子契約書の特徴を簡単にご説明するとともに、導入によるメリット、デメリットについてご紹介します。
■電子契約書とは何か
契約は企業間や顧客との間で締結される重要な法律行為であるため、従来は紙の書面を用い、印鑑の押印や自署によるサインが求められるのが基本です。
日本では古くより印鑑文化が根付いているため、個人との契約でも実印の押印と印鑑証明書の添付が求められることもしばしばです。
また、企業間の契約では会社や代表者の実印と印鑑証明書や法人の登記簿謄本の添付などより厳格な契約手続きが求められます。
もっとも、ビジネスの世界ではグローバル化が進み、契約相手は国内の企業や個人ばかりではなくなりました。
IT技術の革新が進み、デジタル化が進む中で、その技術を活用し、紙の書類からデジタルデータによって契約を行う方法が電子契約書です。
電子契約書においては印鑑やサインに代えて、あらかじめ本人であることを証明した電子署名が用いられます。
また、システム的に付与されるタイムスタンプを通じて契約日付や時間を管理できます。
契約書類の改ざんを防げるとともに、変更などを行った場合は履歴が残り、互いに確認が可能です。
・電子契約はなぜ認められるのか
そもそも、私人間には契約の自由があります。
口頭でも契約の合意はできますが、日本では慣習的に証拠を残すべく紙で契約書を取り交わすことが長く行われてきました。
特にビジネスの現場では世界的に見ても、契約書を取り交わすのが基本です。
そのため、電子的なデータでの契約がなぜ認められるのか不安に思う方もいるかもしれません。
ですが、あくまでも契約の自由なので、相手が電子契約の方式を受け入れてくれれば成り立ちます。
また、2001年4月1日から施行されている電子署名法により、本人による一定の要件を満たす電子署名が行われた場合、本人の意思に基づき作成されたものと推定されるため、法制度による後押しもあります。
・電子署名が持つ法律上の意味
電子署名法では、本人による一定の電子署名が行われている場合、その電子文書等の電磁的記録は真正に成立したものと推定されます。
・電子契約が真正かどうかの検証方法
電子署名法の施行に伴い、一定の基準を満たす場合、総務大臣、経済産業大臣、法務大臣の認定を受けられる制度が導入されました。
認定制度の実施に伴い、総務省、経済産業省、法務省において、認証業務を行うための指定調査機関を指定しています。
認定申請を行うことで電子証明書やタイムスタンプが発行され、それが付いた電子契約は真正に成立したと認められます。
電子証明書とは従来の契約でいう、印鑑証明書のデジタル版のようなものです。
役所が発行する代わりに、各省庁から指定を受けた調査機関が真正性を調査したうえで問題ないと認めれば発行してくれます。
タイムスタンプは、一定の日時以降、契約書データの改ざんがなされていないことを第三者機関が証明してくれるシステムです。
■テレワーク時代は電子契約書が不可欠?
新型コロナウイルスの影響で、テレワークを実施する企業が増えたことは周知のとおりです。
現在ほとんどの業務がネットワークを利用したデジタルデータでのやり取りに変わっており、人員が必ずしも特定のオフィスに集まる必然はなくなってきました。
そんな中、ニュースなどで取り上げられた現場の実態に、目を疑った記憶のある人も少なくないでしょう。
業務自体は自宅で行えるにもかかわらず、ただ単に契約書に印鑑を押すためだけ、紙の書類を物理的にやり取りするだけために、電車に乗って出社せざるを得ない事例があったからです。
非常事態下でナンセンスと言わざるを得ませんが、商慣習だから、今までそうしていたからというだけで人員にリスクを負わせるのは、やはり現代企業の正しい在り方ではないでしょう。
非常事態宣言は解除されたとはいえ、新型コロナウイルスの脅威が世界からなくなったわけでもなく、今後もそのままテレワークを継続するという判断は、企業の英断といえます。
こうした流れを受け、多くの電子契約サービス会社が各社とも期間限定の無償提供などを行い、電子契約や電子サインの導入をバックアップしています。
テレワークの導入を急ぐ多くの企業がこうしたサービスを利用し、社員やその家族の安全を守る行動を実施している最中です。
企業としては早急に対応しなければならない課題が山積みではありますが、電子契約はその中でも重要な位置づけにある取り組みといえるでしょう。
これだけ社会問題化しているにもかかわらず、まだ捺印業務のためだけに出社しなければならない企業が日本にはまだまだあるというニュースも見受けられますので、早急な契約の電子化が求められます。
社員は在宅で十分に役割を担う手段がありますし、電子契約が導入されれば日本でもさらにテレワークが浸透するでしょう。
新型コロナウイルス感染拡大の抑制につなげるためにも、電子契約書や電子サインの導入はこれからのテレワーク時代に必須の仕組みといえます。
■企業が電子契約書を導入するメリット
では、企業が電子契約書を導入するメリットについて詳しく見ていきましょう。
・スピーディー且つグローバルな契約の成立
電子契約書を導入することで、契約がスムーズかつスピーディーに成立できるようになります。
契約書類を準備しなくても、パソコンなどを使ってデータ送信でやり取りができるので、いつでもどこでも契約できる環境が整い、遠隔地やグローバルな契約もスピーディーに成立させやすくなるのがメリットです。
従来の印鑑証明に代わる電子署名を取得しておけば、いつでも簡単に契約の同意ができるようになります。
いちいち印鑑証明書を役所に取りに行く必要がなくなり、書類の添付漏れなどの不備も防げ、より速く、効率的に契約が成立できるようになるのです。
・契約手続きの効率化
データ上で契約書類を作成できるため、ひな型が容易に作成でき、多様な契約に対処しやすくなります。
相手との条件交渉を通じて契約内容に改変を加えたいときも、紙の書類のように一から作り直す必要がありません。
柔軟に契約内容や条件を改定して、お互いですぐに確認が可能です。
一方でタイムスタンプの利用やいつ改定したかの履歴が残せるため、勝手な改ざんがしにくいのもメリットです。
データとして半永久的な保管が可能なため、証拠が残しやすく、契約を巡るトラブル防止にもつながります。
・ペーパレス化
紙の書類が不要となるため、ペーパレス化によるコストカットができます。
データとして長期保管ができるので、書類の保管スペースも不要となり、書類の整理の手間や保管スペースの管理コストの削減ができ、書類保管スペースの有効活用にもつなげられます。
ペーパレス化によるカーボンオフセットで環境貢献ができ、有限な紙資源の利用を減らし、森林の保護などにつなげられるのもメリットです。
企業として求められる二酸化炭素の排出量の削減や地球温暖化防止に役立ち、CSRを果たせます。
・印紙税が不要
印紙税の対象となるためには可視性・可読性が必要であり、電子文書は契約書とは異なり、可視性・可読性を欠くことから印紙税法上の文書に該当しません。
物理的にも収入印紙の貼り付けができず、電子契約書を導入することで印紙税の負担が軽減されるのがメリットです。
もっとも、これには議論があって、現行印紙税法で電子文書を課税できないのは紙の契約との間で課税の公平性や中立性が確保されていないと問題になっています。
そのため、この先、法律改正により、なんらかの方法で課税される可能性は残されています。
もっとも、当面の間は印紙税は課税されないので、かなりのコストカットが可能です。
・契約書の管理が容易になる
これまで大量の紙の契約書を取引先別や時系列でファイリングし、書庫などに管理してきた企業が多いのではないでしょうか。
こうしたファイリングの手間や書庫スペースの用意が不要になります。
ただし、データの消失や漏洩などがないよう、システム上の管理は必要です。
■企業が電子契約書を導入するデメリット
次に、企業が電子契約書を導入するデメリットについて詳しく見ていきましょう。
・導入時のコストや手間
新しいシステムを導入するためのコストがかかり、契約のひな型の精査や電子署名の取得や管理など企業法務部門を中心に手間や労力をかけなくてはなりません。
従来の紙の書類との継続性など、これまでの運用とどう連携をさせるかも管理が必要です。
新しいシステムを導入することで社員への教育が必要になる場合や運用が軌道に乗るまではミスやエラーのリスクも伴います。
システム障害などのトラブルへの対処もしなくてはなりません。
・セキュリティ対策の必要性
契約には重要な企業機密や顧客情報などが含まれるため、万が一、ハッキングなどをされることやデータ流失などが起こらないよう、セキュリティ対策を万全に講じることが必要です。
情報漏洩のリスクを防ぐためのコストや労力がかかるうえ、万が一の情報流失に備えたトラブル対応の方法や損失や信用問題への対応、損害賠償なども含めて企業法務部門でリスク対策を講じることが不可欠です。
・二重運用になる可能性
契約の相手方が電子署名などに対応していないと運用が難しいのが難点です。
一般個人との契約でパソコンも持っていない、使えないというケースもあり得ます。
そのため、電子契約書が普及するまでは、紙の契約書類との二重運用をしなければならないなど、管理の手間がかかります。
■電子契約を締結する際のフロー
電子契約の導入や締結にあたっては、企業法務上も社内でルールを作成し、同じ運用ルールの中で締結していくことが大切です。
その都度、バラバラな方法で行っていては契約の信頼が保てなくなるリスクやデータ管理上のリスクが生じかねません。
そのためのフローをまず検討しましょう。
1.電子契約のルールを定める
電子契約の利用の仕方や締結の仕方、細かな取り決めや注意事項など、社内ルールをまとめましょう。
そのうえで、各社員に理解してもらい、社内ルールの浸透を図ります。
2.電子契約サービスを選定して導入する
ルール作成と同時進行でルールの運用がしやすい、適切な電子契約サービスを選定して導入しましょう。
利用の仕方も研修を行うなど、社内に浸透させることが必要です。
3.取引相手の同意を得る
いかに企業が電子契約を導入しても、取引の相手方が対応してくれないことには成り立ちません。
相手方がシステムやネットに対応できないなどの場合には、電子契約に加えて、従来通りの紙による契約書の二重運用も必要になります。
4.電子契約サービスを通じて契約を締結する
電子契約が可能な相手方に対しては、電子契約サービスを通じて契約書を作成し、電子署名を行って契約書を送信します。
相手方が必要事項を入力して、電子署名を行い、送信すれば、契約が締結されます。
5.適切に管理する
電子契約書が消失したり、流失したりすることがないよう、社内ルールとセキュリティ対策、データのバックアップなどを徹底して管理しましょう。