■雇用契約変更の注意点をご紹介
雇用者と雇用契約を結んだものの、それを契約期間中に変更できるのかどうかわからないと、悩んでいる人も多いのではないでしょうか。
契約期間中に就労条件を変更できるかどうかは、ケースバイケースです。
双方で同意された就労条件は、そう簡単に変えることはできません。
しかし、一定の要件が揃えば、変えることも可能なのです。
もし、変更が可能になれば、決められた手続きに沿って変更していくことは、不可欠です。
ここでは、雇用契約が変更できる・できない場合を解説するとともに、変更手続きの方法や不利益変更する際の注意点について解説します。
■雇用契約は変更できるのか?
雇用契約の変更は原則として認められていません。
それは、就労条件を変えることで、働くスタッフにとって不利益が生じる可能性が高くなるからです。
雇用条件は、原則として、雇用主と雇われる側が結ぶ契約の際に明示する必要があります。
雇用契約の中には、一定の期間が過ぎたら更新するものもありますが、その際も、働く条件を提示することは不可欠です。
それ以外で、就労条件を変えることは、避けることは不可欠ですが、内容を変えることが、理にかなっているものであれば、変更は可能です。
労働契約法第8条では、「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」と定めています。(引用:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=419AC0000000128)
その際は、各スタッフから個別に変えることに対する賛成を得ることと就業規則内で変えることがポイントになります。
・不利益変更とは
就労条件を変える際に、「不利益変更」という言葉がよく出てきます。
これは、労働者が不利になるような雇用内容に変更されることを言います。
等級の引き下げによる減給など、不利益変更とみなされる方法は複数ありますが、従業員に賛成を得て変えるのも、その一つです。
たとえば何かしらの理由で営業時間短縮を余儀なくされ、パート社員の労働時間を短縮する必然性が出てきたとします。
パート社員から賛成を得て契約内容を変更しますが、これはパート社員にとって、「給与の引き下げ」という不利が生じます。
そうした不利益を穴埋めする代替案があれば、「合理性がある」となる可能性が高くなり、契約期間途中の変更が認められるのです。
・雇用形態別不利益変更
会社には、正社員をはじめパート社員など、異なる雇用形態の人が働いています。
不利益変更はどう関わってくるのか、各雇用形態別に、見てみましょう。
正社員
正社員に対する就労条件を変える場合、各正社員に変更内容を伝え、賛成を得ることは不可欠です。
労働組合を持つ会社であれば、組織との折り合いをつけることも含まれます。
もし、スタッフ全員から賛成を得られない場合は、合意無しで変更も可能ですが、合理性のある理由以外は、変更を認められません。
契約社員
契約社員に対する労働条件の変更を途中でして良いのかと、迷う経営者も少なくありません。
しかし、契約社員に対して不利益変更を実施することは可能です。
契約社員には、決められた契約期間働く「有期契約」と、定年まで働く「無期契約」に分けられます。
どちらの契約社員でも、不利益変更は可能です。
その場合も、契約社員に変える旨を説明し、賛成を得る必要があります。
パート社員
正社員よりも不利益変更しやすいと言われているパート社員ですが、パート社員に対する変更も、各社員の賛成と変えるための合理的な理由が不可欠です。
パート社員の不利益変更で主に争点となるのは、時給を減らすという場合です。
たとえパート社員でも、合理的な理由がない限り、勝手に変えることはできません。
勝手に変更して、後に裁判にまでもつれ込むケースもありますので、不利益変更は、慎重に実施することが望まれます。
試用期間中の社員
試用期間中の社員を採用前の社員とし、簡単に本採用を拒否したり、試用期間を変えたりできると考えている人も少なくありません。
しかし、試用期間を経て本採用を拒否した場合、それは「解雇」にあたります。
そのため、試用期間中の社員に対する労働条件の変更であっても、必ず社員に説明し、合理的な理由をもって変えることは不可欠です。
試用期間中の社員に対する合理的な理由とは、たとえば面接のときにわからなかった面が、試用期間中に明らかになり、本採用するのが難しいと判断された場合です。
■雇用契約変更手続きの方法と流れ
雇用契約変更手続きの流れは、各従業員に変更内容を伝え、個別に折り合いをつけて、それを書面上に表すという、2つのステップを踏みます。
・各従業員から個別に合意を得る
就業のルールをどのように変えるか、その方針を固めたら、各スタッフにその内容を伝えます。
伝える方法は、特に決まりはありませんが、個別面談を実施するなど、伝えやすい状況を設定することは不可欠です。
スタッフが同意した場合、その場で覚書を作成するか、雇用契約書を結ぶかすることを、忘れないようにしましょう。
覚書とは、契約前に折り合いをつけた旨を記した書類です。
契約書よりも作成しやすく、メモに近いかもしれませんが、法的な拘束力がありますので、作成しても無駄にはなりません。
契約書を交わすことに躊躇する場合は、覚書を作成することをおすすめします。
書類には必ず、「いつ」「誰が」「何に合意したのか」「書類作成日」「合意した人の署名または捺印」を忘れずに盛り込みましょう。
・就業規則に則って労働条件を変更する
就業のルールを変える場合、それを労働基準監督署に届けますが、その際に必要となるのが「就業規則変更届」です。
この届け出の様式は、特に決まりはありません。
書面に最低限盛り込むのは、会社の基本情報(社名や所在地)のほか、「代表者氏名」「代表者印」です。
就業規則変更届と並行して、労働者代表から「意見書」をもらいます。
意見書にも、特に決められた様式はなく、労働者代表の氏名や捺印、変更に対する意見などを盛り込むことが多いです。
就業規則変更届や意見書を、労働基準監督署に届け出た後は、変更した就業規則を、スタッフ全員に伝えます。
本社のほかに事務所や支店がある場合は、各事業所各支店に手続きを実施しなければなりません。
もし、各スタッフの賛成を得ずに変える場合は、同意書を得る過程をスキップし、労働者代表から意見書を得て、届け出するという流れになります。
■不利益変更をする場合の注意点
原則として、スタッフに何も告げず、勝手に雇用契約などを変えることは、法律上禁じられています。
労働契約法第8条には、不利益変更を良しとしていますが、一方的な変更は、第9条においては無効としています。
就労条件を変える場合は、必ずスタッフに説明し、事前に納得してもらうことを忘れないようにしましょう。
これまでは、不当な扱いを受けても、雇われるほうが折れて泣き寝入りするケースがほとんどでした。
しかし、昨今では不当な扱いを受けたと訴えるケースも少なくなく、訴えにより、雇用主が、大きなダメージを受けることも珍しくありません。
・合理的な理由選びは慎重に
できれば避けたい不利益変更ですが、業況が悪化したなど、やむにやまれぬ事情で、契約途中で変更を余儀なくすることもあります。
変える内容が、合理性を伴っているかどうかが、双方が折り合いをつけるポイントになりますが、人によって解釈が分かれるのが現状です。
通常契約内容の変更は、従業員に不利になることが多く、雇用する側は、変更理由を慎重に選び、納得してもらえるように説明することが求められます。
では、どのような基準で変更理由を決めたら良いのでしょうか。
ポイントとなるのは、「必然性があるかどうか」です。
たとえば、就業のルールを変更しなければ、経営を継続させていくことができないとなれば、変える必要が出てくるでしょう。
たとえ経営を継続させることが目的でも、「変える」というオプションを選択することによって、雇われる側に不利益が生じます。
経営者は、それがどの程度であるか、できるだけ正確に把握することは不可欠です。
そのうえで、代償措置やほかの就労条件が変更できないかを考えます。
検討する際は、できるだけ現実に即して対策を考えましょう。
もし、判断がつかないという場合は、過去の事例などを参考に、ほかの企業がどのように問題を乗り切ったかを調べるのも、一つの手です。
特に給与の引き下げなど、賃金の面でスタッフに不利が生じると、問題がこじれます。
従業員に負担や苦労を強いる場合は、誠意を持って納得のいく説明をし、賛成してもらうことが理想です。
・理由に合理性がなければ途中変更は難しい
ルールを変える理由が合理性を伴わないものでも、スタッフから折り合いが得られることがあります。
しかし、合意案が就業規則の範囲に収まっていなかったり、合理性を欠いてしまったりした場合は、無効となるのです。
変更後の内容が、労働基準法に反することもあります。
もし、違反したまま労働基準監督署に変更届を出しても、それは規則としての拘束力はありませんので、注意が必要です。
■専門家に相談することも検討しましょう
雇用契約の概要や手続きの流れ、不利益変更をする際の注意点について解説しました。
労働条件を契約期間中に変えることは、法律上可能です。
しかし、厳しい条件が付くため、簡単に変えられるというわけではありません。
条件を変えることは、従業員やその家族にまで影響を与えます。
法律で定められているように、変える場合は、合理的な理由かどうかをよく考えることは不可欠です。
もし、1人の判断で決められないときは、弁護士など専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
専門家の立場から、変更可能かどうか判断してもらうことで、トラブルに発展することを防ぐ可能性が高まります。
専門家に依頼することで、手続きの代行や万が一トラブルに発展したときのサポートも受けられて安心です。
本記事で紹介した注意点などを参考にしながら、スムーズに不利益変更を進めていきましょう。