■どんな企業でも債務超過の可能性は否定できない
近年は企業間競争が激しくなっています。
そのため、数年前までは業界のトップだった企業が、いつのまにか債務超過で破綻してしまった、ということが少なくありません。
顧客のニーズも年を経るごとにどんどん変化していくため、それに順応しきれない企業はすぐさま淘汰されてしまうのです。
企業としてはいかに業界の中で生き残るか、ということも重要なテーマですが、一方でもしもの時のために備えておくことも重要でしょう。
赤字が膨らんで経営が成り立たなくなったり、債務を負いすぎて返せなくなったりした時のための知識も得ておく必要があるのです。
会社の経営が悪くなるとすぐさま倒産の2文字が頭をよぎるところでしょう。
もっとも、経営状況が悪くなった会社が取れる方法は倒産だけに限りません。
従業員や取引先との関係を保ちつつ、企業を再建する方法もあるのです。
企業の経営が立ち行かなくなった時には、さまざまな制度を使って経営体力を取り戻す方法があります。
今回はその中から企業再生と事業再生の2つを取り上げたうえで、それぞれの違い、そしてメリット・デメリットについて紹介していきましょう。
■企業再生とは何か?
企業再生とは、経営状況を健全にするための一連の手続きのことを指します。
たとえば債務超過ならば、全額返済とまではいかずとも取引先に債務額を減らしてもらってでも債務をゼロにするといった手続きが挙げられるでしょう。
そのほか、収支が赤字ならばコストをカットして黒字収支にもっていく工夫なども企業再生と呼ばれます。
会社は倒産すると法人格を失ってしまいますが、企業再生の場合は倒産の道を選ぶことはありません。
もちろん一口に再建といってもいばらの道を歩む必要があります。
もともと経営状況が悪い企業が改めて経営を健全化するには相当な苦労を経なくてはいけません。
それでも会社の名前を残しながら経営を続けたい、という時にこそこの方法が採用されるのです。
■企業再生にはどんな方法がある?
企業再生は大まかに言って、法的再生と私的再生に分かれます。
法的再生は文字通り法の助けを借りながら企業を再生していく方法です。
たとえば債務を減免してもらう際に、裁判所に掛け合って話し合いをスムーズに行うのも法的再生に括られます。
そのほか、会社更生法を利用し、法律で規定された範囲で債務を減免してもらう方法も忘れてはいけません。
法的再生の利点は法律で規定された方法を用いるため、確実に再建を行えるということが挙げられます。
一方で、裁判が行われることによって再生中の企業であることが公になってしまうので、業界内での評判低下は避けられません。
もう一つの私的再生は、裁判を経ずに債務の減免を取引先に直接交渉する方法です。
法的再生と違って再建中であることが公になることはありません。
とはいえ、法律の助けなく交渉を行う必要があるため、交渉が失敗する可能性も高くなりやすいです。
私的再生は、あらかじめ良好な関係を築いていた取引先との間で行うのがおすすめです。
■企業再生のメリットは?
企業再生のメリットは、なんといっても会社を倒産させないで済むところにあります。
会社を倒産させて二度と事業に手を出さない、というのならともかく、たいていの経営者は生きていくために新たな事業を立ち上げなくてはいけません。
その際、会社を倒産させてしまえばそれまでの実績はゼロになってしまいます。
それまで持っていたコネクションや業界内での評判を失った中で新たに事業を行っていくのは大変なことです。
その点、企業再生ならば会社の名前を残したまま経営を続けていくことができます。
また、従業員の雇用も守れる、というのも見逃せないでしょう。
企業が倒産すれば従業員もあわせて解雇しなくてはいけません。
その場合、なんのアフターケアもせず再就職しろ、というわけにはいかないのです。
一度雇用した社員の面倒は最後まで見なくてはいけません。
とはいえ、経営状況が悪化した企業にとって、従業員の再雇用まで斡旋するのはなかなか大変なことです。
一方で、企業再生を採用するならば従業員を雇用したままでいることができます。
もちろん、赤字収支を改善するためにコストカットが必要となったら、ある程度従業員も解雇せざるを得なくなるでしょう。
もっとも、全員を解雇するのに比べて、一部を解雇する時の手間のほうが少なくて済みます。
なにより、これまでともに働いてきた従業員と一緒に仕事ができるというメリットは見逃せません。
一から従業員を教育する必要がないので、スムーズに経営がしやすくなるのです。
■企業再生のデメリットは?
企業再生のデメリットとして、企業が再建できたとしても業界内の評判が戻るわけではない、ということが挙げられます。
そもそも再建を必要とするのは一度経営状況が悪化したことがある企業です。
そのため、いかに経営状況を立て直したとしても、あの企業は昔良くない経営をしていたところだ、というイメージを払拭するのは簡単ではありません。
特に銀行から資金を借りる際も、審査が厳しくなることは避けられないでしょう。
もっとも、再建した後、経営が良い状態を続けられればこうしたイメージを逆転することは十分可能です。
経営状況が良好になった会社は信頼できる企業としてみなされます。
取引先との交渉も優位に進められるでしょうし、銀行からの資金援助も再建前よりやりやすくなることは間違いありません。
短期的に見ればデメリットも少なからずある方法ではありますが、長い目で見れば企業再生は会社の体質を変えてくれる方法と言えるでしょう。
■事業再生とは何か?
事業再生は、企業が携わっている事業そのものを再生しようとする試みのことを指します。
企業再生は企業そのものが再生する方法でした。
とはいえ企業を再生しようとする場合、進行中の事業そのものも見直さなくてはいけません。
そのため、この事業は大きな利益をもたらしてくれる可能性があるにもかかわらず、コストが莫大であるため中止しなくてはいけない、というケースが避けられないのです。
その点、事業再生は事業そのものにフォーカスしながら再生を進めるので、事業を中止する必要はありません。
企業にとって肝入りの事業を維持するために採用されることが多い方法です。
■事業再生のメリットは?
事業再生の場合、手掛けている事業が魅力的なものであればあるほど再生がしやすいというメリットが挙げられます。
たとえば自動車の開発に欠かせない部品を作る事業を手掛けていたとしましょう。
自動車製造会社にとってはぜひともその事業を続けてもらいたいことは言うまでもありません。
そこで、自動車製造会社がスポンサーになることによって事業再生計画が立ち上がる、という可能性が生まれるのです。
経営状況を健全化したり、資金繰りを改善したりする方法に比べれば、こちらの方法のほうがより早く再建が進みやすいでしょう。
また、債権者にとっても事業再生のほうがメリットが大きくなりやすいです。
なぜかといえば、その企業が手掛けている事業が大きな利益を生み出せさえすれば、債務が全額返済される公算が高くなります。
これはもちろん事業を手掛けている企業にとっても悪い話ではありません。
たとえば法的再生を利用して債務を減額してもらったうえで再建したとしたら、業界内での評判は悪くなってしまいます。
しかし、債務を全額返済できれば業界内での評判を悪くすることなく企業経営を続けることができるのです。
■事業再生のデメリットは?
事業再生は企業再生と違って、企業そのものの経営状況を直接良好にするものではない、というデメリットが挙げられます。
先ほどは事業再生がうまくいった時のメリットを取り上げましたが、必ずしも再生した事業がうまくいくとは限りません。
もし事業がそれでもうまくいかなくなった、となれば企業そのものが倒産せざるを得なくなってしまうでしょう。
そのため、再生計画は綿密に立てなくてはいけません。
また、先ほどスポンサーが見つかれば債権はよりスムーズに進む、と述べましたが、必ずしもスポンサーが付いてくれるとも限りません。
スポンサーを募ったものの結局見つからなかったので事業をあきらめざるを得なくなった、といった可能性も常に考えておく必要があります。
この事業ならば必ずうまくいく、という算段がある時のみ事業再生を選んだほうが良いでしょう。
■再建計画は事前にしっかりと練らなければいけない
ここまで企業再生と事業再生、それぞれの違いについて詳しく説明してきました。
もっとも、どちらの方法が優れていて、どちらの方法が劣っている、ということは重要ではありません。
重要なのはどちらの方法が企業にとってふさわしいかを模索することにあります。
単純に両者を比較したうえでこっちが良さそうだからこっちを採用した、という理由では債権がうまく進まない可能性が高くなってしまうでしょう。
そのため、まずは自社の経営状況を把握しておくことが欠かせません。
自社がどれだけの債務を抱えているのか、その債務は返済可能なのか、といったことを確認するようにしましょう。
また、再生後企業がどのような道を歩むかを考えることも重要になります。
これまでの事業をリセットして新たな会社として生まれ変わるのか、それともこれまでの事業を維持するのか、というだけで採用するべき方法も変わってくるのです。
一連の再建計画を一人で考えるのはほぼ不可能と言って良いでしょう。
そのため、まずは会社の上層部で話し合いを進めていく必要があります。
それだけでなく、話し合いの過程でリストラが避けられない、と結論付けられたら従業員との話し合いも欠かせません。
法的再生を利用する場合は弁護士に相談したほうが良いでしょう。
債務を減免してもらわなければいけなくなったら、取引先にも連絡しなければいけません。
このように企業が再生するにはいくつもの障壁を乗り越えなくてはいけないのです。