■知財調停とは?
「知財調停」の運用が2019年10月1日から開始されましたが、どのような制度かわからない、という人も多いのではないでしょうか。
知財調停は、知的財産権を巡る紛争を、迅速に解決することを目的として誕生しました。
知財調停とは、知的財産権に関する紛争を解決するための調停制度です。
知的財産権は、「著作権」や「商標権」など、「無形固定資産」の一つですが、たとえば著作権が侵害された問題が持ち上がった場合、著作権を所有する人と侵害しした人の間で話し合いが行われます。
知財調停が誕生する前は、当事者同士で解決できない場合、裁判に持ち込んで解決を目指していました。
しかし裁判沙汰になると、時間やコストがかかる、企業は晒したくない情報まで公開する必要があるなどのデメリットが多く、できるだけ負担がかからないように解決できる方法が望まれました。
こうした背景から誕生したのが、知財調停です。
新しい制度が登場することで、当事者同士で話がまとまらない紛争は、裁判ではなく調停で解決することが可能になりました。
調停を担当する「調停委員会」は、調停主任を務める裁判官1名と弁護士や裁判官OBなど専門家2名で構成されています。
選出されたメンバーは、いずれも「裁判所知財部」に所属していて、知的財産権に関して専門知識を有しているのです。
紛争の当事者は、調停日に裁判所へ出廷またはテレビ会議(遠隔地の場合)で調停に臨みます。
調停は定期的に複数回行われ、通常3回期日内の問題解決を目指します。
■制度の概要について
裁判所のホームページによりますと、知的調停が対象としているのは、「特許権,実用新案権,意匠権,商標権,著作権,回路配置利用権,商法12条,会社法8条もしくは21条に基づく請求権,不正競争防止法に定める不正競争,種苗法による育成者権,他人の氏名,名称または肖像を広告の目的または商業的目的(報道目的を含まない。)のために無断で使用する行為に関する紛争等」の事件で、知的財産権を巡る訴訟とほぼ同じ内容になります。
(参照:https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/l3/Vcms3_00000618.html)
調停はどの裁判所でも行えるというわけではなく、原則として「東京地方裁判所」または「大阪地方裁判所」の2ヶ所になります。
調停委員会は、知的財産部に所属する裁判官や専門家ですが、知的財産部があるのは、東京裁判所と大阪裁判所の2ヶ所のみです。
そのため、当事者は調停を行う際、どちらかの裁判所を選んで合意する必要があります。
調停の手続きですが、申立てをする裁判所を決めた後、1回目の調停が開かれる前に、「調停申立書」「管轄合意書」「書証」といった必要書類を準備します。
提出部数も決められていて、原本のほかに、通常申請書や必要書類は相手方の人数分のコピーと、調停委員会用のコピー(3通)が必要です。
第1回の調停期日は、調停の申立てをしてから約6週間後に始まります。
当事者たちは調停前に、申立書の送付や答弁書に対する反論などを行い、調停の場で速やかに審理が行われるよう準備しておく必要があるのです。
第1回の調停期日で交渉がまとまった場合、調停が成立します。
交渉が決裂し、不成立になった場合は、第2回の調停期日を待つことになります。
第2回調停期日は、第1回期日からおよそ1ヶ月後です。
第1回と同じく、双方の意見から、問題解決できるかどうかの審理が行われます。
もし新たに書証や証拠が提出された場合は、それらについても議論の対象になるのです。
第2回の調停期日でも解決できない場合は、第3回期日に進みます。
第3回期日は、問題を解決する目安となり、申立人と相手方には、「心証開示」が求められます。
3回の調停で解決することを目的としていますが、それ以降の調停は開かれない、という意味ではありません。
当事者同士がさらなる調停期日を求める場合は、その後も続きます。
調停での解決が難しいと判断され、裁判に持ち込むという展開になると、調停手続きはそこで終わります。
また、当事者同士で話し合いを続けたいという場合も、同じです。
■知財調停を活用するメリット
知的財産権の問題を調停で解決するということには、どんなメリットがあるのでしょうか。
・非公開で交渉できる
知的財産権が訴訟に発展した場合、企業は関連するとみなされた情報を第三者にもわかるように開示する必要がありました。
情報の開示は、時には企業にとってデメリットとなりますが、調停は非公開で進められますので、申立てや審理内容について、第三者に知られずに問題解決ができるというメリットが生まれます。
・問題解決までがスムーズ
知財調停を行う前、申立人と相手方は、「合意管轄」に合意するほか、事前に交渉してから調停に臨みます。
そのため、第1回調停期日の時点で、話し合う環境と、調査委員会が双方の言い分を審理する環境が整い、当事者のみで話し合うよりも、問題解決までがスムーズにいきやすくなります。
・柔軟性がある
知財調停は、当事者同士が合意すれば、調停を続行させたり、取り下げたりできるなど、柔軟性があります。
任意で話し合う、訴訟に持ち込むなど、選択肢が複数あるというのは、調停制度のメリットと言えるでしょう。
・時間と費用を抑えられる
訴訟の問題点は、コストと時間がかかることが挙げられますが、知財調停は、訴訟よりも短時間で終わりやすく、費用が安いという傾向があります。
調停から訴訟に発展する場合も、申立人が期日までに訴訟を提起した場合(通常は、調停不成立の通知が届いてから2週間以内)、手数料の引き継ぎが可能になります。
原則として調停は3回期日で解決させることを目標としているため、問題解決が、訴訟よりも早く解決する傾向にある、というのも知財調停のメリットと言えるでしょう。
・専門家が調停を務めてくれる
知的調剤を担当する調停委員会は、知的財産権に詳しい専門家らで構成されています。
そのため、専門家の視点から問題が議論されますので、当事者が納得する形で問題解決することが期待できます。
■知財調停を活用する際のポイント
知財調停は、訴訟と同様の事件について利用できますが、「問題が複雑すぎないこと」「お互いが話し合える状況である」問題が対象です。
そのため、当事者同士がいがみ合い、話し合いで問題を解決することが難しいと考えられるような場合は、調停に向いていないと考えられます。
知財調停の利用を検討する場合は、当事者同士が交渉に応じる意思があるかどうか、確認することが大切です。
調停に必要な申立書を書くときに、必要な情報を盛り込むことが、早期解決のポイントになります。
申立書は、調停委員に状況をできるだけ正確に把握してもらうために、紛争に発展した経緯をはじめ、双方の言い分、これまでの経緯などを忘れずに盛り込むようにしましょう。
話し合いによる解決意思があることを書くのも効果的です。
具体的な言葉を使い、簡潔に書くことを意識すると、良いでしょう。
申し立てされた側は、申立人に対して、「答弁書」(申立書に対する反論や事実確認の有無を盛り込んだ書類)を作成する必要があります。
相手の主張や事実と述べていることに対する回答のほか、解決策なども答弁書内で提案することも可能です。
通常答弁書の提出は、第1回調停期日までと決められています。
もう少し具体的に言うと、第1回調停期日の10日前までです。
答弁書を受け取った申立人は、答弁書の内容をよく読み、調停が開かれる前に言い分などを準備しておく必要があります。
答弁書は、ほかの書類と同じように、複数用意する必要がありますが、申立人には直接送付すると決められていますので、忘れないよう注意しましょう。
知財調停には、決められた書類を提出する必要があり、書き方にもポイントがあります。
自分で準備することが難しいと感じた場合は、弁護士など専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
弁護士事務所の中には、知的財産権に強みを持つ弁護士が所属しているところもありますので、費用はかかりますが、調停の準備を安心して任せられます。
弁護士は調停だけでなく、訴訟に発展した場合も、代行してもらえますので、心強い存在です。
■無理せずに専門家に依頼しましょう
知財調停について、背景や概要、メリットなどについて解説しました。
知財調停には、訴訟よりも時間やコストがかからない、非公開で行われるなどのメリットがあります。
活用することで負担を少なく問題解決が可能になります。
知財調停は訴訟で取り扱う事件に対応していますが、相手と話し合いができないほど関係が悪化していたり、問題が複雑であったりするケースには向いていません。
こうした特徴を把握して、制度を利用するかどうか検討すると良いでしょう。
調停といっても、精神的肉体的に負担がかかることもあります。
その場合は一人で奮闘しようとせず、弁護士など専門家に依頼することを選択肢に入れることも大切です。