■事業承継をすべき時期とは
企業では代表取締役社長など経営者が代替わりすべき時期がいずれは訪れます。
大手企業でも中小企業でも、それは変わりません。
近年では大手企業でも代々、家族で社長を受け継いできた企業や初代となる創業社長が割と早い段階で退き、30代から40代前半のまだ若い息子に事業承継をするケースが増えてきました。
そのうえで、自分は第二の人生としてまったく別の事業や別の世界へとチャレンジし、時代の変化や消費者ニーズの変化が激しく、IT技術など技術革新も激しい時代に若くて柔軟性とスピード感のある後継者に会社を任せたいというケースが増えています。
もっとも、どのタイミングで事業承継をすべきかは、企業によって異なります。
何よりも、後継者が育っていなければならず、現在の社長が抜けることで、経営が揺らいだり、取引先からの信頼が落ちたり、従業員の求心力が低下して、経営が成り立たなくなるのでは困るからです。
一方で、限界まで働いて倒れるなどし、あたふたとしたまま急遽の承継や死後承継は避けなければなりません。
現代の変化の激しい時期においては、ある程度、後継者の力が高まってきた段階で早めに経営権を譲るとともに、自身は代表権のない会長へと退き、経営へのアドバイスを行ったり、状態を見守るというのが選択肢の1つです。
中小企業をはじめ、創業社長の影響力やカリスマ性が大きい企業では、社長が変わるだけでも、取引先や金融機関からの信用や信頼が揺らぐことがあるため、会長として残ることで、円滑なバトンタッチができることもあります。
■事業承継先の代表例
事業承継を行うタイミングとともに重要となるのが、誰に承継をするかです。
代々にわたって親から子へと受け継いできた企業でも、必ずといって子供に受け継がなければならないわけではなく、誰に経営を任せれば、信頼が維持でき、企業が存続し、取引先も顧客も従業員も安心で納得のいく状態になれるかが大切です。
事業所先としては大きく親族への承継と、親族以外への承継がありますので、その2パターンについてメリット・デメリットを検討し、誰に承継させるべきか考えていきましょう。
・親族に承継する場合のメリット
親族に承継する場合、経営権はもちろん、自社株などの事業資産も一体的に引き継がせることができるので、経営者一族の資産の安定や家系の安定を図ることができます。
企業名が家名にもなっている場合には、社長名が同じ氏で引き継がれるほうが、取引先などに安心感を持って受け入れられ、取引先の維持もしやすくなります。
従業員も想定内の承継となるため、大きな動揺や大きな環境の変化などが起こらず、安心して働けるのもメリットです。
もっとも、これらのメリットはもう1つの側面から見るとデメリットにもつながるので、多角的に検討していくことが大切です。
・親族に承継する場合のデメリット
自社株を生前贈与することで、自社株の評価によっては多額の贈与税が発生することがあります。
ただし、現在の税制では「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」により、中小企業の事業承継においては、一定の要件を満たせば贈与税と相続税の納税が猶予されるため、これを利用できれば、デメリットの回避が可能です。
もう1つの問題は、承継者が育っているかです。
ほかの企業に勤めていた子供などの親族をいきなり連れてきた場合やすでに承継する企業で働いている場合でも仕事ができない、従業員や取引先に信頼されていないといった状態では承継後に不安が残ります。
取引先が離れることや従業員が離職するといった事態を招くほか、金融機関による融資が難しくなるなど資金調達の面でも問題が生じることがあるので注意しなくてはなりません。
この承継リスクを回避するためには、あらかじめ計画を立てて後継者を育成しておく必要があります。
よくあるパターンとしては大学卒業後に、同業他社や今後の経営に役立ちそうな企業で5年から10年ほど修業を積み、その後、承継する企業に入社し、そこで一から学び10年ほどかけて仕事を覚え、従業員や取引先からの信頼が得られてきた段階で承継するという方法です。
事業承継の流れや事業承継後の結果としてはうまくいくメリットがある一方、後継者の育成に時間が要する点がデメリットです。
承継すべき方を早期に決めたうえで、本人もそれを心得、修業を積んだり、学んだりしていかなくてはなりません。
長期的な視点で計画を立てることが必要となるのが、デメリットの1つと言えるでしょう。
・親族以外に承継する場合のメリット
親族以外に承継する場合、従業員の中から能力がある人を選ぶ、ほかからヘッドハンティングするといった方法が考えられます。
従業員から職場でも慕われ、取引先にも信頼がある、企業の実情を知り尽くした人物を抜擢するのは、企業を安定成長させていける1つの方法です。
また、時代の変化に合わせて企業も変革を迫られているときや建て直しが必要な状態などの場合には、時代に合わせて変革できる力のある人や事業再建家に承継させることで、企業が息を吹き返せるメリットがあります。
・親族以外に承継する場合のデメリット
一方、デメリットとして従業員として仕事ができる方が、必ずしも経営マネジメントの能力があるとは限らない点が挙げられます。
やはり、早めに目星をつけ、マネジメント能力も高める育成をしていかなくてはなりません。
また、代々、親族が受け継いできたような企業で親族以外の従業員や特に社外から連れて来ると、社内で動揺が走って求心力が落ちることや取引先などが経営状態に問題があるのではなどと不安視することがあります。
この状態をいかに早期に払拭し、信頼してもらえる人物を選べるかがポイントになります。
■事業承継を考える人がすべきこと
このように親族、親族以外の事業承継のメリット、デメリットを見たとき、事業承継を考える人がすべきことは、なるべく早い段階で後継者の目星をつけておくこと、中長期的な視点で育成計画を立てて育成をして力をつけさせることが大切です。
そのうえで、どの段階で承継をするのかタイミングを計らなくてはなりません。
自社株の譲渡などの問題も発生してくるので、1人で抱え込まず、早い段階から弁護士とコンタクトを取り、企業の実情や現経営者の想いを理解してもらったうえで、承継者も後継者も従業員や取引先などもすべてがWin-Winの関係になるよう計画を立てていきましょう。