■実態調査で明らかになった衝撃の事実
新型コロナウイルス感染予防対策のため、緊急事態宣言が解除された後もテレワークの実施を続ける企業が急増しています。
企業が本格的なテレワーク制度を導入するためには、一定の設備投資が必要なことは事実でしょう。
体制は整えるつもりでも、なかなか歩みが遅い企業があることは理解できます。
ただし、テレワーク化を阻むのが単なる日本の古い商習慣だとしたら、話はまったく別です。
まだ緊急事態宣言下にあった最中、テレビのニュースなどで耳を疑った記憶のある人も少なくないでしょう。
テレワーク中にどうしても出社しなければならない理由、その多くが「押印」「紙書類の処理」という時代遅れとも言える内容だったからです。
ハンコを押すことが、直近で命を守るための行動を果たして上回ることでしょうか。
大手企業が加盟する日本CFO協会の調査でも、テレワーク中に出社する必要が生じる事態の41%が「請求書や押印の手続き」「印刷処理」といった前時代的な内容でした。
同時に、テレワークが実施できないとする企業の理由も「請求書や契約書などの書類がデジタル化できていない」という回答であり、しかもそれが全体の77%にものぼる状況となっています。
すでに到来していたはずのテレワーク時代とそれを永らく阻んできた日本のハンコ文化、そのいびつな関係が浮き彫りになったアンケート結果といえるでしょう。
http://www.cfo.jp/wordpress/wp-content/uploads/2020/04/release_200406.pdf
■そもそも日本のハンコ文化はいつからなのか
日本で印鑑が行政文書のみならず私文書にも使われるようになったのは、江戸時代以降となります。
それ以前にも政治の重要な場面では官印が使われていましたが、商取引や証文など個人が保証のために使用するようになったのは江戸の文化です。
江戸ではすでに実印登録のための印鑑帳があり、他人のハンコを勝手に使ったり偽造したりすると、死刑にも相当する重い刑罰もありました。
実は明治政府が欧米諸国のように署名制度に変えようとしたことがあるのですが、周囲から猛反対に遭い、1900年に押印に効果を与える法律を制定したのです。
押すだけで簡単に保証が得られるハンコは民間に広く普及し、なんと1900年に作った法律は2006年5月1日に会社法が施行されるまで有効でした。
そんなつい最近まで連綿と続けてきたハンコ文化から離れるのは、ハードルの高い部分もあるかもしれません。
ただ近年働き方改革を推進し、ペーパーレス化を本気で進めようとしている国なのであれば、そろそろ脱却が完了しても良い頃ではないでしょうか。
2019年末にはデジタル手続法も施行され、行政手続きのオンライン化も進められているわけですから、対応ができないはずはありません。
■欧米にはハンコ文化はない
そもそも欧米にはハンコ文化はなく、グレイトシールと呼ばれるマーク(国章)があるだけで、こちらも一般では使うことがないので別物です。
手紙にシーリングスタンプを押すことはありますが、契約時などに使うような印鑑は存在しません。
歴史を遡ると印鑑はメソポタミア文明で発祥し、権力者が書簡に印を付けることから始まったようですが、現在もまだ使っているのは中国・韓国・日本のみです。
ただし中国でも日本のような使われ方はしておらず、書類もほぼサインや電子認証が主流に変わっています。
そもそも契約書には当事者の署名があれば問題ないのが海外では当たり前で、本人が目の前にいるとわかっているのに、印鑑がないと認められないような日本のケースには違和感しか抱かれません。
契約で何より重視されるのは「当事者間での合意」ですので、極端な話、契約書もなく口頭であっても、メールやチャットであっても当事者同士の合意が認められれば契約は有効とされます。
そしてこの点は、実は日本においてもまったく変わりはないのです。
日本でも取引の契約書など、一般的な書類にはハンコがなくてもなんら問題ないものが大半です。
必要なのは不動産登記や法人登記のように、実印登録や実印押印が法的に定められている書類のみであり、通常の業務でそうした重要書類が作成されることはほとんどないでしょう。
つまり、緊急事態宣言下にリスクを冒してまで出社し、一般的な紙の書類に印鑑を押すことには何の法的効力もないのです。
■テレワーク時代にハンコは不要
残念ながら、新型コロナウイルスの脅威が世界からなくなるかどうか、先行きは現在まったく不透明です。
そんな中、企業が経済活動を進めていくためには、一刻も早く新しいやり方を導入し、素早く柔軟に対応していくことが不可欠です。
そもそもウイルスの脅威とは別次元で考えても、企業がペーパーレス化を進め、ハンコ文化から脱却することはビジネス的に大いなるメリットとなります。
また、ペーパーロジック株式会社のハンコ決済に関するアンケートでも半数以上の52.3%が決済の電子化を希望しています。
古い商慣習を見直し変えることができれば、日本の企業も真の意味でグローバル化ができるでしょう。
この先の安全な契約確認手段としては、電子契約書と電子サイン、電子認証などが活用されることは間違いありません。
遠い将来の話ではなく、今すでに始まっている新しい時代に早く順応するために、ハンコ文化は見直されるべきといえるでしょう。