■子供がいない場合は配偶者が相続するという勘違い
夫婦のいずれかが亡くなったとき、子供がいない場合は配偶者が遺産をすべて相続するわけではありません。
この点に関して勘違いをしている人が少なくありませんが、民法では相続順位を定めており、相続権を持つ法定相続人が法定相続分を得ます。
確かに配偶者は必ず相続権を持ち、相続順位の枠の外にいる特別な存在であることは間違いありません。
被相続人が亡くなった際には配偶者が必ず相続人となり、血族相続人とは別立ての権利を持つことは事実です。
もちろん戸籍において正当な配偶者である必要があり、内縁関係では相続権はありません。
また離婚が成立していれば、元配偶者であっても一切の相続権はありません。
法定相続人は大きく分けて配偶者と血族相続人とに分けられ、実際に血縁関係がある人と法律上の血族である法定血族が同様に相続権を持ちます。
血族ではない配偶者の血族は相続権は持たず、それぞれの血族相続人には相続順位が定められています。
つまり相続は、配偶者のほかに血族相続人の優先順位に従い、一番上にあたる人に権利があるということです。
■血族相続人の相続順位と法定相続分
それでは血族相続人の優先順位をまとめておきましょう。
第一順位は被相続人の「子」、第二順位が「直系尊属」、第三順位が「兄弟姉妹」です。
順位に従い、存在しない、もしくは相続を放棄した場合に、次の順位に相続権が移ることになります。
つまり今回のように子供がいないケースでは、まず第二順位となる直系尊属に相続権が移ることになるのです。
・直系尊属に移る場合
第二順位となるのは直系尊属です。
つまり被相続人(亡くなった方)の両親に相続権が移ります。
このときの法定相続分は、以下の通りです。
・配偶者 3分の2
・被相続人の親 3分の1
両親ともに生存している場合、父母それぞれが3分の1を均等割りします(6分の1ずつ)。
・兄弟姉妹に移る場合
直系尊属である両親ともに亡くなっている場合、第三順位となる兄弟姉妹に相続権が移ります。
このときの法定相続分は、以下の通りです。
・配偶者 4分の3
・被相続人の兄弟姉妹 4分の1
兄弟姉妹が複数人いる場合、人数で4分の1を均等割りします。
また代襲があり、兄弟姉妹が亡くなっている場合はその子供に相続権が移り、同じ法定相続分で計算されます。
・血族相続人がいない場合
被相続人の両親ともに亡くなっており、兄弟姉妹はいない、もしくは兄弟姉妹も亡くなっていて子供がいないという場合は、配偶者がすべて相続することになります。
■被相続人が離婚経験者の場合
現在婚姻関係にある配偶者との間に子供がいないとしても、被相続人に離婚経験があり、前の配偶者との間に子供がいる場合は子に相続権があります。
元配偶者は相続の権利を持たないと前述しましたが、子の権利は変わりませんので法定相続分を相続することになります。
このときの法定相続分は、以下の通りです。
・配偶者 2分の1
・被相続人の子 2分の1
子が複数人いる場合、人数で2分の1を均等割りします。
子には再代襲があり、もし子が亡くなっていればその子、その子も亡くなっていたとすればその子というように相続権は延々と移ります。
・相続人同士で協議が必要
子供がいないからといって、配偶者が遺産を自由に処理することはできません。
場合によっては土地や家の売却も考えなければならない事態にもなりますし、法定相続分を捻出するため、住んでいる家や土地を手放さなければならないケースもあり得ます。
大切な家族を失ったうえに家まで失うような事態になるのはなんとしても避けたいところですが、遺産をどうするかは相続人同士で協議をするしかありません。
相続人同士の協議は遺産分割協議と言い、相続人それぞれの権利を正確に分け合う必要があります。
■遺言でできることとは
残された人たちが頭を悩ませないようにするために、遺言を残しておくという方法があります。
有効な遺言がある場合は、その意思に従って指定された人が遺産を貰い受ける権利を持つことができます。
遺言に関しては原則、相続順位や法定相続分のルールは関係ありません。
指定されている遺産が一部の場合、残りについては民法に従って相続されることになります。
ただし、多くの人が疑問に感じるのが、遺言書はどこまで効力があるのかということでしょう。
そもそも遺言とはどういったもので、どこまで効力が認められるのかはあまり知られていません。
基本的に遺言では相続方法を指定することが可能であり、法律を超えた部分で当人の意思を表明することができるものです。
たとえば本来相続人ではない人に遺産を分け与えたり、特定のものを特定の人へ受け継がせたりすることが可能となります。
法律でも遺言によって指定された相続方法は法定相続に優先すると規定しており、これは公的に認められる個人の権利です。
誰か特定の人へすべての遺産を相続させたい場合にも、効力が認められれば権利が認められると考えられます。
・相続人の指定
遺言では、特定の相続人に遺産を取得させる内容が書かれている場合が少なくありません。
相続人が複数いる場合には特に有効で、子供がいない場合は配偶者にすべての遺産を取得させることも可能です。
逆に、本来法的に相続の権利を持たない内縁関係の相手や世話になった相手などに遺産を渡すこともできます。
これは相続ではなく「遺贈」になります。
・遺産の寄付
子供がいない人で配偶者もいない場合、遺言書で遺産を法人や慈善団体などに寄付するという選択もあります。
財産はあくまで当人のものですので、亡くなった後にそれをどうしたいかを決める権利も当人にあると考えれば良いでしょう。
■遺言が無効にならないために
相続に関して遺言を残す場合は、遺言が無効にならないよう注意する必要があります。
実はせっかくの遺言書が無効になるケースが増えており、間違いのない遺言書を作成するには法の定める要式に則る必要があります。
遺言書にはいくつか種類がありますが、一般的に作成するのは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」です。
もっとも効力が確保しやすいのが公正証書遺言で、公務員が公証人となって保管・履行を実施するため、ほとんどの場合は無効になるリスクがありません。
それでも手軽な自筆証明遺言を選択する場合は、いくつか注意すべき点があります。
・自筆で書く
「すべての文字を自分で書く」ことを守ってください。
パソコンなどは無効となり、誰かに代筆してもらっても無効になります。
唯一、財産目録だけパソコンや資料添付で良いとされているのです。
最後に自分で署名し、押印します。
印鑑は実印である必要はありません。
・自筆で日付を入れる
日付を入れることは必須ですが、日付も自筆である必要があります。
忘れただけで無効になりますので注意が必要です。
タイトルと日付がパソコンで無効になったという事例もあります。
・訂正と加筆は避ける
基本的に書き間違えたら書き直しましょう。
どうしても訂正したい場合や加筆したい場合は、厳しいルールに則って行う必要があります。
訂正
訂正箇所に二重線を引き押印
余白部分に「●字を削除」など書き、署名
加筆
吹き出しで文字を書き足し押印
余白部分に「●字を加入」などと書き、署名
複雑であり、間違えたことで無効になってしまうので、面倒でも書き直すほうが確実です。
塗りつぶしたり修正液を使ったりしたことで無効となった事例があります。
■遺言書を見つけたら
亡くなった後で自筆証書遺言が見つかったら、家庭裁判所で検認を受けなければなりません。
勝手に開封すると制裁が課される可能性もあります。
近年法改正があり、自筆証書遺言も法務局で預かる制度ができたため、トラブルを避けるためには利用することが懸命です。
あらかじめ法務局の担当者が内容を確認するため要式違反もなく、無効になるリスクがほぼないことはメリットでしょう。
預けた遺言書は家庭裁判所での検認も不要です。
・納得のいかない内容の場合はどうする?
遺言書が被相続人の意思であり優先されるとしても、内容がどうしても納得しにくいものである場合もあり得ます。
その際は「遺留分」を主張することで、兄弟姉妹以外の相続人に認められる最低限の遺産取得割合を得ることも可能です。
そしてあまり知られていませんが、相続人が全員同意すれば遺言の指定ではない方法で分割することもできます。
不公平な遺言に関してはそのままにせず、相続人同士が納得のいく話し合いをすることが何より大切です。
■遺産相続は弁護士に相談を
前述した通り、子供がいないからといって、遺産相続が簡単にできるわけではありません。
配偶者がすべてを相続できると勘違いし、自由に財産を処分するようなことのないよう、正しい知識で処理することが重要です。
あらかじめ遺言を残す場合も、亡くなった後に遺言書が見つかった場合も、弁護士に相談することでスムーズな対処が可能となります。
夫婦が元気なうちから誰が相続する権利を持っているかを確認し、夫婦間で相続がどうなるのかをしっかり話し合うことが大切です。