■ 私人間のトラブルを裁判によって解決するときに生じる検討課題
個人間で生じた損害やトラブル、企業との間に生じた損害やトラブルなどを解決したいとき、あなたならどのような対応を採るでしょうか。
法律問題の解決には、まずは法律事務所に相談し、交渉を通じての解決を望むかもしれません。
交渉によっても解決ができない、和解に至らないといった場合や相手の対応に満足がいかないといった場合には最終手段として裁判を起こす方法があります。
中には最初から民事裁判を提起して、徹底的に闘うといった決断をする方もいるかもしれません。
民事裁判を起こすことで、どのようなメリットが得られるのか、また、どのようなデメリットがあるのかを見ていきましょう。
■民事裁判に多い事案
どんな事案が民事裁判でよく争われるのかを確認しながら、私人間のトラブルを裁判によって解決するときに生じる検討課題をイメージしていきましょう。
民事裁判によるメリット、デメリットも見えてきます。
1.離婚や親権問題
私人間でよくある民事裁判事例の一つが、離婚や親権をめぐる裁判です。
この点、離婚は裁判を起こさなくても、双方の合意に基づき可能です。
裁判が起こされるのは、離婚したくても一方が合意しないケースや離婚には合意しているものの財産分与や慰謝料請求、親権や養育費の支払いなどの条件で折り合いがつかないなど、揉め事が生じている場合になります。
夫婦間に子どもがいない場合、財産関係で揉めるケースが多いです。
マンションや一戸建ての住宅にいずれが住むのか、住宅ローンが残っている場合にはどう返済するのか、不倫など相手に責任がある場合には慰謝料請求などが行われることもあります。
広いマンションを購入したのに妻に財産分与し、夫は別の家を借りて出ていきながら、住宅ローンは名義人である夫が支払うというケースもあり、これをどのように折り合いをつけるかなどが争われます。
子どもがいる場合には親権の帰属をはじめ、いずれが養育するか、養育費をいつまでいくらずつどのように支払うのか、子どもと暮らせない方の面会権をめぐって争われるケースが多いです。
2.交通事故トラブル
大きな死傷事故などは、認否や責任をめぐって刑事裁判になることが多いですが、損害賠償請求をするには刑事責任の追及とは別に、民事裁判を起こさなくてはなりません。
刑事裁判で有罪になっても、損害賠償の支払いは命じられないためです。
交通事故で死傷事故が生じた場合、車同士の事故で互いに自動車保険に入っていると、損害保険会社の担当者が示談交渉を行うのが一般的です。
交通事故トラブルで民事裁判が起こるケースが多いのは、被害が大きいなど示談交渉がまとまらなかったケース、いずれかが無過失や歩行者、自転車、バイクで損害保険の担当者がいないケースなどで起こりやすくなります。
交通事故により後遺障害が発生し、一生寝たきりや車いす生活になった事例では、特に民事裁判に発展しやすくなります。
また、一度示談交渉が成立したものの、その後に後遺症が発生したケースなども、民事裁判に発展しやすい難しい事例です。
3.不正解雇や未払い残業代やパワハラ等による労務トラブル
近年増えているのが、現役の従業員や元従業員が企業を訴える労務トラブルにもとづく民事裁判です。
かつては企業との間で不満が募った場合やトラブルが生じても、一個人を相手にしてくれないとあきらめてしまう場合や文句も言わずに退職して転職する道を選ぶなど、いわゆる泣き寝入りする方が少なくありませんでした。
ですが、情報化が進み、個人の主張も強くなってきた中で、ネットで企業を批判して企業の悪名をさらし、民事裁判にも訴えてくるケースが増えました。
以前なら、セクハラやパワハラを受けたという事実をさらすのが恥ずかしいと黙っていたケースでも、今の時代は違います。
セクハラやパワハラをした個人だけでなく、それを監督する立場にある企業を訴えるケースが多いです。
企業内でトラブルが生じて不当解雇された、賃金や残業代の未払いがある、不公平な扱いをされたなど、元従業員が訴えるケースもあります。
正社員だけでなく、派遣社員や学生アルバイトなどの訴えも増えているのが特徴的です。
非正規労働者をサポートするユニオンなどが登場したことで、訴えやすくなっているのです。
また、オーバーワークや社内でのいじめなどで過労死した場合や自殺した従業員の遺族に訴えられるケースも少なくありません。
情報化社会では、企業が訴えられることだけでもリスクです。
企業のイメージが悪くなり、不買運動や取引の停止、利用客の減少、求職者の減少など企業の業績や経営にも大きな影響が出るデメリットがあります。
民事裁判を起こされたら、顧問弁護士と連携しながら真摯に向き合う姿勢を見せることが大切です。
4.取締役や従業員の不正による損害賠償請求
企業関連の裁判で、企業側が訴える側に回る近年、増えている事例です。
取締役など経営をマネジメントしている役員の会社資産の流用や背任、従業員の会社資金の不正流用や個人情報の漏洩による財産搾取、顧客の資産を不正に流用したことに伴い、企業が弁済した場合の賠償請求といった事例が増えています。
IT化により、簡単に資金を移動することや顧客情報を盗める状態になっており、セキュリティ対策の強化と、役員の監視、従業員教育の徹底などが求められています。
5.製品事故による損害賠償請求
家電製品や機械などの不良などで死傷事故が生じた場合やエレベーターや機械の保全ミスや施設管理を怠ったことなどで死傷事故が生じた場合にも、民事裁判に発展するケースが多いです。
製造物責任法(PL法)による損害賠償請求事例や施設賠償責任による損害賠償請求事例などです。
■ 裁判を起こすことによるメリット
1.問題の解決
なかなか解決しないトラブルや問題を決着させることができます。
不誠実な対応を採る相手や満足のいく対応を採ってくれない相手との間で、裁判を通じて公正で公平な解決の道が開けます。
2.請求ができる
勝訴の判決を得れば、金銭の請求や適切な行動を求めることが可能です。
たとえば、代金を支払ってくれない人やお金を返してくれない人にその金額に対して遅延利息や契約内容に規定した違約金などを含めて、返せと命じてもらえます。
また、不法占拠しているような人や売買契約をしたのに商品や不動産などを引き渡さないような人に対して、不法占拠している場所からの立ち退きや所持品や不動産などの引き渡しするよう判決が下されます。
特に交通事故訴訟や事故やトラブルなどを通じて人命が奪われたり、一生残る後遺障害が残ったり、店舗などの休業損害や物が壊されたことなどによって大きな損害が生じた際には、裁判で訴えるのが有利です。
損害額や慰謝料の算出や確定を裁判官が行ってくれるので、高額な賠償命令が下されることも少なくありません。
たとえば、年齢の若い将来のある学生や収入の高い人などが事故で亡くなったケースでは、3億円といった高額の賠償命令が出る場合や後遺障害が残り、その後の生活や治療費がかかるケースでは4億円といった判決が出されるケースもあるからです。
この点、弁護士が単に裁判外でこの金額を請求しても、資金的に支払うのは到底無理と交渉は決裂するでしょう。
ですが、裁判で訴えて判決が出れば、支払える資力や能力があるかは別として、被告はそれに従わなくてはなりません。
一生を賭けてでも、全財産をなげうってでも、家族や親族の協力を得てでも、あらゆる手段を講じて命令に従う必要があります。
3.強制的に請求ができる
判決が出れば、それに従う必要がありますが、実際問題として実行しない人も少なからずいます。
たとえば、代金を支払えと言われたのに、いつまでも支払おうとしない、不法占拠を続けているといったケースです。
この場合、判決を得ることで差し押さえや強制執行が可能となります。
預貯金の差し押さえや給与債権の差し押さえをはじめ、不動産を差し押さえて強制執行して競売にかけるといった手段で、支払いが認められた金額を強制的に得ることも可能です。
また、不法占拠者に立ち退きを迫り、不法に建てた建物を解体、撤去することや勝手に置いているものなどを強制的に排除できます。
交渉だけではなかなか相手を動かせない場合も、判決を得ることで強制的な問題解決につなげられるのも有利です。
4.犯罪の抑止力になる
民事裁判のメリットの中には、犯罪の抑止力になるというものがあります。
民事裁判の目的は、被害や損害を金銭的に補填するというものです。
そのため、一見すると被告にとっては金銭的な負担しかないように感じるかもしれません。
しかし、一般人にとっては、民事裁判といっても、訴えられること自体が稀であり、裁判に臨むに当たり、相当の心身的な負担が発生するのです。
多くの被告が、民事裁判を体験すると、もう二度とこういった事態を発生させたくないと思うことでしょう。
民事裁判を起こされたという事実は、被告にとっては社会的な汚点になってしまう可能性や家族や親族からの評価が著しく下がる可能性もあり、会社に知られてしまうのではないかという恐怖感もあるでしょう。
このように、民事裁判を起こされると、原告だけではなく、被告の方にもいろいろな負担が発生することになりますので、十分な抑止力になってしまう可能性があるのです。
金銭的な負担以外に何もデメリットがないのであれば、同じ過ちを犯してしまう可能性がありますが、平穏な生活が脅かされる可能性があるとわかれば、同じ過ちを犯してしまう可能性は著しく下がることでしょう。
さらに、特定の事柄に対する民事訴訟の判例が増えれば、社会的な意義につながることもあります。
あなたの判例を頼りに、ほかの人が勇気を出して訴訟を起こす可能性もあるのです。
不当な行為に対して、しっかりと罪を償わせることができるとわかれば、社会全体の抑止力としても機能してくれます。
これらのメリットを十分に発揮させるためには、自身にとって意味のある判決にしなければならないので、優秀な法律事務所や弁護士を選定する必要があります。
5.法治国家の仕組みに慣れる
日本は法治国家ではありますが、あまり法律に慣れている人はいません。
そのため、本来ならば相手に罪を償わせられる可能性のあるものでも、泣き寝入りするというケースが多くなっているのです。
法律を有効活用しないということは、法治国家の人間としては不利な状況にあります。
せっかく、法律で上手に回っている国で暮らしているわけですから、民事裁判を有効活用したいものです。
刑事裁判に比べて、民事裁判は、一般人にとって訴訟のハードルが低くなっています。
そもそも、民事裁判とは私的な争いを法的に解決するための制度になっています。
そのため、本来であれば、もっと国民にとって一般的なものであるはずなのです。
民事裁判が一般的になれば、法治国家に生きる人にとっては大きなメリットになってくれるでしょう。
■ 裁判を起こすことに伴うデメリット
1.公開される
民事裁判は一定の場合を除き、基本的に公開法廷で行われます。
そのため、問題が起こっていることを隠したくても、知られてしまうリスクがあります。
もっとも、有名タレントの裁判や世間で大きな問題となった民事事件などを除けば、通常、民事法廷を傍聴する人はほとんどいません。
弁護士が代理人となってくれるので、自ら公開される場に出向く必要もないので、基本的には広く知られることなく問題の解決が可能です。
2.費用がかかる
民事裁判で裁判所などに納める訴訟費用については、最終的には負けた人が負担することになります。
もっとも、裁判を起こす段階では、訴訟ごとに必要な金額を収入印紙で裁判所に納付しなくてはなりません。
一方、弁護士に支払う費用は勝ち負けを問わず、依頼した人が支払います。
費用の額は法律事務所によって違いますが、着手金や成功報酬をはじめ、裁判所に出向くたびに日当などの支払いが必要となります。
裁判が長引くほどに費用がかさむのが難点です。
3.時間や期間がかかる
裁判に訴えるための準備や弁護士との打ち合わせなどに伴い、時間が割かれます。
大きな訴訟事件などでは、仕事を辞めてまで勝訴に向けて没頭する方も少なくありません。
近年ではなるべく短期での決着を目指しているものの、複雑な裁判ほど期間も長期化します。
被告が判決に納得せず、控訴するなどすれば、いつまでも裁判で戦い続けなくてはなりません。
4.精神的負担
時として公の法廷にさらされたり、いつまでも煮え切らない被告の態度にイライラしたり、本当に解決ができるのかと不安になることも少なくありません。
事故などのケースでは、法廷の場で自分が知り得なかった事実などを知ってショックを受けるなど、精神的な負担を受けることもデメリットの一つです。