コラム

企業側が把握しておくべき業務委託契約の注意点

■業務委託をする前に

人材不足で自社では手が回らない、細かい業務は任せてメイン業務に集中したい、業務効率を上げたいなどの理由で外部の事業者に業務委託をする企業が増えてきました。
自社で人材を雇うより低コスト、専門的なサービスが受けられる、生産性が上がるなどの理由で気軽に業務委託をしがちですが、アウトソーシング業者とのトラブル事例も増えています。
円滑な企業法務を行っていくうえでも、アウトソーシング業者との間で起こり得るトラブルを知り、業務委託契約を締結するうえでどのような注意点があるのか、理解することが大切です。

 

■業務委託でトラブルが生じやすい理由

アウトソーシング業者との間でトラブルが起こりやすいのは、そもそも、業務委託契約の種類や性質を互いに混同していることや理解をしていないことが少なくありません。
業務委託契約には大きく分けて請負契約と委任契約があるため、締結すべき契約の種類を間違えてしまった場合や契約の種類に合わせて契約条件を整えておかないと、思わぬトラブルや損害が発生することや無駄な費用がかかってしまうため注意が必要です。
請負契約は仕事の完成を目的とし、完成しなければ報酬請求権も発生しません。
委任契約は事務の処理を委託するもので、プロセスが重視される契約です。
たとえば、システムの開発を業務委託するなら、システムの完成が必要なので請負契約を結ぶのが基本になります。
一方、システムの保守点検を継続的に行ってもらう場合や企業法務のコンサルティングやサポートを法律事務所に委託するような場合は、委任契約が一般的です。
契約の種類を間違えてしまうと、お互いの認識のズレが生じ、思わぬトラブルが発生するので注意しなくてはなりません。

 

■業務委託契約で起こりやすいトラブルや問題点

よくあるトラブルとしては、委託する業務内容や委託方法が契約時に明確にされておらず、契約当事者間でズレが生じているケースが挙げられます。
報酬の支払いを巡るトラブルも多く、契約書で「何をすれば、いつの時点で報酬を請求できるのか」を明確に定めていなかったことが原因となることが少なくありません。
過去に別の業者に業務委託をしたときの契約書や定型的なひな型を新たな契約にも流用してしまうことで、備えるべき条項が欠如する場合や逆にあるべきでない条項が含まれてしまうケースもあります。
請負契約なのに委任契約のひな型を使い回すことがないようにしましょう。
また、契約の中途解約を巡るトラブルも多いです。
業務を委託したものの、思ったような成果が出ない、コストパフォーマンスが悪いなどで途中で委託をやめたくなるケースや別のアウトソーシング業者に切り替えたくなることもあるはずです。
そうした際に契約期間の途中で解約しようとしたところ、違約金の支払いを請求されたなど、思わぬ費用が発生するなどして、不満を持つアウトソーシング業者を切るに切れなくなることも少なくありません。

 

■トラブル回避のための注意点

業務委託契約におけるトラブルを回避するためには、まずは、契約の種類を明確にし、委託する業務内容や委託方法をお互いに共有し合い、契約書に漏れなく、確実に反映させることが求められます。
請負契約の場合、報酬の支払いは委託した業務を完遂したか、完成したものを納品した段階で一括して代金を支払う、もしくは中間代金と完成後に残額を払うのが一般的です。
これに対して委任契約の場合は、委託した事務の処理が満足のいく状態で遂行されていることを前提に、毎月いくらとか、一定期間でいくらといった支払い方が基本です。
いずれにしても、いかなる業務を完成または処理すれば、いつの時点で、いくらの報酬の支払いが受けられるのかを明記しておきましょう。

中途解約のトラブルを防ぐためには、どうすれば良いでしょうか。
請負契約では納期を定める場合や委任契約では有効期間や更新条項などを設けるケースが一般的です。
製品が完成する納期前や有効期間の途中で中途解約ができるよう、業務を委託する企業としては、ペナルティなしに、いつでも自由に中途解約できる条項を盛り込めればベストです。
ですが、相手方としては納得しないケースが多いため、有効期間の残り期間分の報酬を支払うことで理由を問わず解約できるといった条項を設けることもあります。
中途解約は委託するをする側と委託を受ける側の利益が対立するため、円滑に解約をするためには双方の利益に配慮しつつ、自社に少しでも有利な条件にできないか、企業法務部門で検討や契約締結前に相手方との交渉を行いましょう。
この点、請負契約の場合は仕事の完成が目的なので、企業間で交わす契約書に特別に条項を明記していなければ、請負契約について定めた民法641条が適用されてしまいます。
それによれば、委託した企業はいつでも契約を即時解除できますが、それによってアウトソーシング業者に生じる損害の賠償をしなければなりません。
こうした法令の規定を踏まえながら、契約締結前にしっかりと業務委託契約の内容を検討しましょう。

■実際に起きたトラブル事例

業務委託契約にあたって起こりやすいトラブル事例を知り、思わぬトラブルに発展しないよう注意しなくてはなりません。
ここからは実際に起こったトラブル事例をご紹介します。

・二重派遣を巡るトラブル

二重派遣は法律で禁止されているため、悪質な意図はなかったとしても、結果的に二重派遣になると法令違反として行政処分などを受けることがあるため、注意しなくてはなりません。
たとえば、フリーランスの方に自社の業務を委託する契約をしたのに、関連会社や子会社に出向させることは認められないので注意しましょう。

・偽装請負を巡るトラブル

偽装請負は人件費カットなどのために、正社員を業務委託契約に切り替えながら、実際には上司の指示の元で働かせ、従属関係に置くことを指します。
正社員としての社会保障などが失われるのに、従属関係が残るため問題となります。
そんな悪質なことはしないと油断してはいけません。
近年、働き方改革のためと思って、安易に業務委託制度などを導入してしまい、偽装請負を指摘される事例が増えているからです。
社員の自由な働き方を認めたいと業務委託制度を設けるのであれば、労働組合などと協議のうえで明確な規定を作る必要があります。
そのうえで社員に周知徹底を図り、自ら希望した社員のみを双方の合意のもとで業務委託契約へと切り替え、その後は独立した方の自己裁量で仕事をさせ、それに見合った報酬を支払わなくてはなりません。
無理やり業務委託に切り替えさせる場合や相手が理解していないのに業務委託に切り替えてしまうとトラブルに発展します。

・業務委託契約に関する損害賠償トラブル

フリーランスの方と業務委託契約を結ぶ場合、フリーランス側で法的な専門家を介するケースはほとんどありません。
そのため、適切な精査が行われないまま締結してしまい、後々になって損害賠償に発展するトラブル事例が年々増えています。
企業側に法務を担当する部署や顧問弁護士がついている場合は、そうした専門家の作成した契約書のひな形をそのまま使用している分には問題ないでしょう。
ただし、企業はケースごとに業務委託契約書を独自にアレンジすることも多く、意図せずとも法律上適切でない内容を含む契約書に変えてしまうおそれがあります。
前述した実体的な雇用契約なども同様ですが、コンプライアンスの観点からも契約書に手を加える場合には、都度専門家のチェックが必要と言えます。

・再委託によるトラブル

再委託とは、受託者が委託業務をさらに別の誰かに委託することです。
企業側は受託者のスキルを評価して委託内容を決定し、それに見合うだけの報酬を認めて業務委託するわけですから、第三者へ業務が流れてしまうことは非常にリスクの高いことでしょう。
実際に起きるトラブル事例は、企業側の知らない間に再委託され、依頼内容が正確に伝わらず成果物が意図しないものになったり、クオリティが著しく劣ったりするケースです。
このトラブルを避けるためには契約時点で明確に制限を設ける必要があり、再委託の禁止、もしくは再委託時は事前の許可制とするなどを契約書に記載することが大切です。
違反すれば契約解除、レベルが希望水準に達しない場合は契約途中であっても解約できるなど、リスク回避の文言が必要となります。

・報酬に関するトラブル

よくあるのはフリーランスの方に企業から報酬が支払われないといったトラブルですが、前述のように、レベルに難があるため、企業が成果と認めないといった事例があります。
ただし、報酬の支払遅延は下請代金支払遅延等防止法(通称:下請法)違反であり、企業側の都合で支払いを遅らせることはできません。
親事業者と下請け事業者との取引を公正にすることで下請け事業者の利益を保護するための法律ですので、資本金規模と取引内容が合致する場合、フリーランスの方も対象となります。
仕事の発注から報酬を支払うまでが一連の業務であり、その中において両者は常に対等な立場を維持することが必要です。
余計なトラブルを回避するためには、まず契約書で報酬に関する定めを細かく定義しておきましょう。
支払総額だけでなく成果物単位の金額など報酬算定方法も明示し、支払時期や支払方法(分割か一括かなど)、着手金なども明示します。
とはいえ、レベルに満たないものに対価は払えないという委託側の言い分もありますので、契約書内には納品物に関して委託者が検収を行い、問題がないことを条件に支払いを行う旨は明記しておきましょう。
また経費が発生する場合、どこまでが委託者の負担か、支払段階でトラブルにならないようにしておくことが大切です。
検収と修正、報酬の支払いについては非常にトラブル事例が多いため、細心の注意が必要です。

■クラウドソーシング利用時の不透明さ

近年、クラウドソーシングにより、実際に会ったことも話したこともない方に、メールやSNSでのやり取りだけで業務委託を行うケースも増えてきました。
全国どころか、世界の有能な人材に業務を委託できる反面、信頼性で不安が残ります。
業務委託契約を取り交わした本人が実際には仕事をせず、能力の低い方などに丸投げすることや納期になっても納品されずに連絡が取れなくなる事例も増えています。
エスクロー入金をしたのに持ち逃げされる事例もあるため、委託相手の実在性をチェックする本人確認や仕事の進捗の逐一確認、相手に一定期間ごとに報告を義務付けるなどの予防策を講じなくてはなりません。

・リモートワークによる意思疎通の問題

業務の委託契約を締結する前には対面で面談を行うなど、信頼できる相手に委託したとしても、その後、納品されるまで在宅ワークで任せきりとなると、期待していたような成果がもたらされない事例も、よく起こるトラブルです。
仕事に手間取って進んでいないのに、お互いに連絡を取り合うことをしなかったことから納期に間に合わなくなる事例やお互いの認識のズレや相手の理解不足や誤解などにより、まったく違うものが出来上がってしまう事例も少なくありません。
こうしたトラブルを招かないためにも、委託する業務内容についてお互いに共通認識を持てるように事前の打ち合わせを徹底しましょう。
そのうえで、途中での進捗報告や確認、制作途中の成果物のチェックなどを行って、方向性がずれないようにすることが大切です。

・著作権の権利の帰属などを巡るトラブル

業務委託をして納品された成果物に関しては、著作権は委託企業に移ることを契約に定めるのが通常ですが、中には著作権を主張してきたり、自分が作ったのだからと自己利用をしたり、他社に売り込むような契約違反をする事例も少なくありません。
一方、著作権を譲渡したのだから、内容については一切責任を負わないと成果に対して責任を負わないケースや実は盗作や盗用であったなど、委託した企業が訴えられる事例もあります。
盗作や盗用がないよう管理するのはもちろん、著作権の帰属の明確化と互いの責任の範囲を明確にし、相互に同意をしておきましょう。

・進捗管理と修正

相手の顔が見えない分、進捗管理にはこれまで以上の丁寧さが必要です。
社内であれば管理担当者が常に状況を把握し、修正指示をその場で出すこともできますが、それと同様にリアルタイムのチェックを行うことは事実上不可能です。
一概に言えませんが、業務指示や進捗管理、納品物の検収工数はこれまでより増える想定も必要でしょう。
場合によっては管理担当者が本業の時間を削られるリスクもありますので、全体的なスケジュール調整も考えられます。
トラブルを回避するためには、委託先から定期的なフィードバックを得ることが何より重要です。
委託先にはあらかじめ解決してほしい課題、実施してほしい業務内容、ゴールを明確に伝え、具体的なロードマップを作成して共有することが望ましいでしょう。

・情報漏洩対策

企業が社外へ業務を発注する以上、情報漏洩リスクが発生することは避けられません。
もちろんこのリスクはクラウドソーシングに限ったことではありませんが、クラウドソーシングでは特に、受注者の仕事環境が不透明です。
重要な機密情報を扱う依頼では特に注意すべき点ですので、あらかじめ秘密保持契約書を締結するなど対策は必須と言えます。
また契約で縛ればそれで安泰というわけにはいかず、思いもかけないところから情報が漏洩する事例もありますので、最終的には信頼関係が重要です。

・委託先の優良性

クラウドソーシングでは、委託先の優良性を見分けることが難しいのも事実です。
フリーランスの方などは人物像を判断することはかなり困難であり、取引中に連絡がつかなくなるトラブル事例も少なくありません。
過去には指定金額より高額を請求されたというトラブルもあります。
業務委託の際には、実績や技術に加え、人物像などもできる限り見極めて優良性を確認する工夫が必要です。
クラウドソーシングにおいては委託先を単なる下請けとして見てしまうことなく、常に対等なビジネスの相手として取引が成立するかどうかを判断する必要があります。
相手は自社の抱える課題を解決する存在であり、ビジネスパートナーとして提携できる相手かどうかで判断することが重要です。

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