コラム

事業譲渡と会社分割の違いやそれぞれの特徴を解説

■事業譲渡と会社分割の違い

企業では複数の事業を運営しているケースが少なくありません。
その事業の一部をほかの会社に売却して移転する方法として、代表的な手法が事業譲渡と会社分割です。
両者はどう違うのでしょうか。
この点、事業譲渡は事業を個別に譲渡する方法であり、会社分割はその事業を営む母体ごと包括的に譲渡するというところに違いがあります。
たとえば、あるAという会社がサプリメントの製造販売事業、化粧品の製造販売事業とレストラン運営事業の3つの事業をしていたとしましょう。
その際にレストラン事業を切り離すことを決め、売却することを決めたとします。
事業譲渡の方法を採る場合は、売却先を探します。
B社との間で合意が成立すれば、レストラン事業はB社が運営していくことになるわけです。
この際、既存の店舗や厨房設備などの施設をはじめ、レストランのブランドや名称、メニューなども引き継がれ、運営ノウハウなども引き継がれます。
顧客の立場から見れば、運営会社は変わっても、基本的にはこれまでと同じお店で同じメニューを楽しむことが可能です。
営業権を含む、有形、無形の資産が承継されることになりますが、どの資産を移転させるか、債務の移転についても個別に決めることができます。
従業員についても、B社に移るかどうかは個別の同意が必要となり、B社の経営なら働きたくないから移転しないという選択も可能です。
一方、B社としても店舗やブランド、メニューなどは引き継ぎ、知名度の高さなどを活かしながらも、スタッフは自社の従業員や新たに雇い入れる従業員を充てるとともに、メニューを変えたり、お店のコンセプトを変えたり、サービス内容を変えるなど独自の運営が可能となります。
これに対して、会社分割はA社が新会社としてB社を作り、そこに資産をはじめ、従業員もすべて移転させる方法です。
A社の従業員であった方は、B社の従業員として新たなスタートを切ります。
レストラン事業が好調ゆえにブランドの強化を図りたいときをはじめ、逆に不採算事業ゆえに切り離したうえで、1つの会社として生まれ変わって事業のテコ入れや再生を図りたいときなどに利用されることも少なくありません。

■事業譲渡とは

事業譲渡は、とある事業についてすべてを包括的に譲渡するのではなく、買い手との交渉のもと、資産や負債を個別に譲渡する契約です。

■事業譲渡のメリット

買い手としては買い取る事業を運営するにあたって、必要な資産のみを受け継ぎ、債務については承継しないという交渉も可能です。
この点、会社分割の場合はすべての資産も債務も包括的に受け継がなければなりません。
そのため、契約前に徹底的な調査を行っておかないと、思わぬ簿外債務を引き継いでしまい、負担を抱えるリスクがあります。
これに対して、事業譲渡では債務を引き継ぐ場合も、個別に指定し、契約書に明確化したものだけを引き継げば良く、予想外の簿外債務を抱えるリスクがないのが、買い手にとっての安心材料です。

■事業譲渡のデメリット

債務は個別に承継されるため、包括的に新しい会社に承継される会社分割とは異なり、債権者保護手続きは必要ありません。
ただし、個別に移転する債務について、その債権者の個別同意が必要となるため、かえって交渉が難しく手間がかかる場合があります。
従業員についても、個別交渉が必要です。
事業のノウハウや経験を持つ人材を引き継ぐことができれば、譲り受けた事業の運営もスムーズになります。
また、人材不足の時代には新たに従業員を雇い入れるのも難しいので、経験のない自社の従業員を教育するとなれば、手間もコストもかかります。
ですが、必ずしも、経験値の高い人材を得られるとは限りません。
事業譲渡が生じたことで、有能な人材が移転に同意せずに離れてしまい、経験の浅い従業員や能力のない従業員ばかりが移転してくるというデメリットも生じます。
また、譲渡を受ける事業を運営するには許認可が必要となる場合、新たに許認可申請を行って取得しなくてはなりません。
建設業や不動産業、運輸業や金融業など許認可が必要な事業は数多く存在します。
許認可申請には手間もコストも時間もかかるうえ、万が一、許認可が得られないとなれば、譲り受けた事業を行うことができないため、弁護士などのサポートを受けながら、しっかりとした準備をすることが必要です。
売却した企業にとっては譲渡損益が課税対象となるとともに、個別資産の移転については消費税の課税資産については買い手が消費税を支払う必要ががあります。

■会社分割とは

会社分割は会社の事業の全部または一部をほかの会社に包括的に承継させる会社法上の行為であり、組織再編として位置づけられます。
会社分割の方法は大きく2種類に分けられ、既存の会社に対して移転する吸収分割と新しい会社を設立して移転する新設分割の方法があります。
吸収分割の場合、事業を移転する企業から見ると会社分割ですが、承継する企業にとっては吸収合併になるのが特徴的です。

■会社分割のメリット

会社分割では事業に関連するあらゆるものを包括的に移転します。
従業員も包括的に承継でき、許認可もそのまま受け継げるため、受け継いだ会社においてもスムーズに事業をスタートさせることができるのです。
税務上の適格要件を満たす場合には、譲渡損益の繰り延べが適用され、会社分割における資産の包括承継については消費税は課税されないなど、税制上のメリットも受けられます。

■会社分割のデメリット

一方、債務も一括で移転されることから、債権者保護手続きが必要です。
この点、承継を受ける会社では官報で公告を行い、債権者に個別催告を行うのが原則ですが、官報と日刊新聞紙の公告又は官報と電子公告を行えば、個別催告をしなくて良くなる点は、事業承継に比べるとかえってメリットと言えます。
また、事業を移転する会社においては、承継会社に債務の履行を請求できない債権者に対する保護手続きが求められます。
ただし、承継会社が承継する債務について移転する会社がすべてを重畳的に債務引き受けを行う場合やすべての連帯保証する場合には、債権者はこれまでと状況が変わらず、大きな影響を受けないため、債権者保護手続きの省略が可能です。
一番のデメリットは簿外債務の引き継ぎリスクがあることです。

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