コラム

もしも従業員がコロナに感染したら?労務対応はどうすれば良い?

■コロナ禍における企業の労務や対応方針

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、企業にはテレワークの導入や拡充が求められています。
もっとも、飲食業や小売業、接客サービスを伴う業種や工場での現場作業が必要となる製造業、建設業、機械などの保守点検業務や医療や介護などの一定の業種や職種においてはテレワークの導入は無理があります。
そこで、消毒の徹底やうがい、手洗いの励行、マスクやフェイスシールドの着用、ソーシャルディスタンスの維持やアクリル板の設置など予防対策を講じるのが企業の労務対応の1つです。
事業を維持するために行うのはもちろんですが、何より、通勤して多くの人が集まるリスクの高い環境で働いてもらう以上、企業としては従業員をいかに守るかが重要な課題となります。
もっとも、いかに対応をとってもリスクが現実化してしまった場合、どのような対応を取れば良いのでしょうか。

■従業員に発熱や喉の痛みなどの不調が生じたら

従業員が発熱した場合や喉の痛みや鼻水、咳、下痢などの症状があると訴えている場合、企業としてはどう対応すべきでしょうか。
コロナの症状は当初は発熱や咳などと言われていましたが、味覚障害や臭覚障害、下痢や嘔吐などの胃腸障害なども生じることがわかってきました。
そのため、少しでもいつもとは違う症状がある場合や体がだるいなどの不調を訴えた場合には自宅待機をしてもらうことが大切です。
もっとも、事前に従業員に周知徹底を図っておかないと、無理をして出勤する場合や症状を隠してしまうおそれもあります。
少しでも異変を生じたら、シフトや業務を気にすることなく、休んでもらう、職場で状態がおかしくなった場合にはすぐ早退してもらうように環境を整えることが必要です。
この場合、通常は病欠扱いになり、有給休暇を使って休むか、無給になるかは通常、本人の選択に任されます。
もっとも、有給休暇が残っていないなどの事情で給料が減ることを怖れて、無理に働いてしまう可能性も少なくありません。
そこで、コロナ禍が収束するまでは、コロナが疑われる症状で病欠しても給料は減らさないなどの労務対応を講じておくのも1つの方法です。
なお、疑われる症状がある場合には従業員の出社はさせないという一律の措置を取るなど使用者の自主的な判断で休業を要請する場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当するため、休業手当を支払わなくてはなりません。
休業手当は平均賃金の6割以上の支払いが求められます。

■差別のない環境づくりを

従業員の陽性者が1人でも出れば、店舗や工場の休業や消毒が必要となり、現場作業を2週間程度停止させるなど、事業運営にも大きな影響が生じます。
職場内だけでなく、顧客や取引先などの濃厚接触者への連絡や対応が求められることや消毒作業などのコストも負担しなくてはなりません。
そのため、職場にウイルスを持ち込ませない予防策が何よりも重要となります。
新型コロナウイルスを持ち込まないようにするためには、疑われる症状が出た場合や実際に陽性になってしまったとしても、責めたり、差別をしないような環境づくりも不可欠です。
誰もが感染リスクがあることを前提に疑われる症状が出た場合や陽性になっても、不利益な取り扱いは一切しないことを労務の方針として周知し、従業員が安心して申し出をして、休める環境を整えましょう。

■PCR検査で陽性だった場合

では、実際にPCR検査を受けて陽性になった場合はどのような対応が必要でしょうか。
陽性者は事業主の指示などを待たず、都道府県知事による就業制限が講じられ、職場には出勤できなくなります。
そのため、基本的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」には該当しないませんので、休業手当を支払う必要はありません。
一方、被用者保険の加入者の場合、傷病手当金の要件を満たせば、傷病手当金を受け取ることができます。
療養のために労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日以降で、事業主からの給料の支払いが受けられない場合に、直近12ヶ月における平均標準報酬日額の3分の2の金額補償が、最大で1年6ヶ月受けられます。
症状にもよりますが、最低でも2週間の待機が要請されますので、3日目以降は傷病手当金による給与補填があることを確認しておきましょう。

■労災の対象になる場合

この点、新型コロナウイルスに罹患したのが、プライベートな事情ではなく、業務に起因したものである場合、労災給付の対象となります。
職場がクラスターと認定された場合だけでなく、感染ルートが明らかでない場合であっても、罹患するリスクが高いと考えられる次のような業務に従事している場合には、潜伏期間内の業務従事状況やプライベートでの行動などを調査します。
そのうえで、個別に業務との関連性があるかが判断されるため、どのような環境に置かれていたかを確認しなくてはなりません。

■業務との関連性が疑われるケース

業務起因性があると疑われるケースの1例として、複数の陽性者が確認された労働環境下で業務に従事していた場合が挙げられます。
職場内をはじめ、取引先や出張先などにおいて2人以上の陽性が確認された場合で、従業員が訪れた施設利用者が陽性だった場合なども当てはまります。
ただし、同一事業場内で複数の労働者が陽性判定を受けたとしても、互いに近接や接触の機会がなく、業務での関係もまったくないような場合は対象外となるのが一般的です。
2つ目のケースとして顧客など外部の人との近接や接触の機会が多い労働環境下で業務に従事している例が挙げられます。
たとえば、コンビニやスーパー、ドラッグストアなど小売業の販売業務や飲食店での接客、バスやタクシー等の運送業務、介護サービスや育児サービスなどの顧客や利用者との接触機会が多い業務に従事している場合です。
労災給付に該当するか、詳しくは事業場を管轄する労働基準監督署に相談しましょう。

■労災給付を受けるために

労災請求手続は新型コロナウイルスで要請となり、療養を余儀なくされている方が直接、保険給付の請求を行うことになっています。
もっとも、重症など症状が重くて手続きができないケースはもとより、最低でも2週間は人との対面などを制約されるため、思うように手続きを取れないおそれもあります。
事業主が取るべき対応としては、請求書の作成などのサポートが必要です。
事業主による助力は労働者災害補償保険法施行規則第23条で規定されており、労災事故により、自ら保険給付の請求やその他の手続きを行うことが困難である場合には事業主が手続きができるように助力しなければならないと規定されています。

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