コラム

パワハラで訴訟を起こされた!企業がとるべき対応とは?

■企業内で起こり得るパワハラ訴訟とは

労働者を雇用している企業であれば、パワハラで訴訟に発展するリスクをゼロにすることはできません。
厚生労働省のまとめによる概念では、パワハラは同じ職場で働く者へ、職務地位や人間関係などで優位性を持つ者が業務の適正範囲を超えて精神や身体に苦痛を与える行為とされます。
ここにポイントが2つありますが、まず「優位性」は職場内での力関係を、「適正範囲」は指導の合理性や必要性を指し、単に従業員が不満を感じたからといってすべてが当てはまらないことを示しています。
企業が訴訟問題を抱えた際、この点を理解して状況分析を行うことは非常に重要であり、法務担当部署や労務担当部署がパワハラの定義を正しく認識することは必須事項です。
優位性の中身は多様であり、単に上司と部下といった関係ではなく、同僚間であっても、専門性においても力関係が成り立ちます。
つまり、部下から上司へのパワハラも十分に起こる可能性があり、集団的ないじめや知識の有無による嫌がらせなどで特定の人員の排除が起こる可能性もあります。
業務の適正範囲については、指導との線引きを念頭に置かなければなりません。
そもそもパワハラと業務上指導とは線引きが困難とされる領域ですが、何をもって適正とするか基準を設ける必要があります。
一般的には、合理性や必要性のある指導や指示であれば適正と認められ、たとえそれを指導された側が不満に感じても直ちにパワハラとは認められません。
厳しいか厳しくないかではなく、あくまでも業務上の適正範囲であることが重要であり、逸脱する行為でなければパワハラにはあたらないことも理解が必要です。
逆にいえば、いかに指導的な振る舞いであっても相手の人権や人格を傷付ける言動や役割・存在を否定する言動は逸脱した行為となります。
たとえば、客観的に見て異常な業務ノルマを課すことや否定的な言動を繰り返して心理的に追い込むことも逸脱行為です。
重要なのは人権侵害や人格否定にあたらないか、指導される側の成長の糧となり得る行為かであり、あくまでも客観的に労使の理解を得られる行為か判断する必要があります。

 

■パワハラ訴訟の報告を受けた場合

一般的にパワハラ訴訟は、ハラスメントを受けた側が特定の個人に対して起こします。
たとえば部下が上司を訴えたり、嫌がらせを受けた従業員が同僚を訴えたりする事例です。
多くは50万〜100万円相当の慰謝料請求となりますが、うつ病になるなど働けない状況に陥った場合には相応の額に跳ね上がる場合もあるでしょう。
また、残業代が未払いであると、個人ではなく企業そのものが訴えられる可能性もあります。
個人が訴訟を起こされた場合、会社に報告せずに自分だけで事を済まそうとする人もいるようですが、後の裁判で隠ぺい工作を行ったとして、最も不利な状況に追い込まれる可能性が高いでしょう。
パワハラ訴訟の場合、企業に関係なく事態が収束することはありませんので、まずは報告義務を設けること、従業員にも周知徹底させることが重要です。
企業側の対応としては、まず報告を受けた段階でどちらかの側に付くような対応はありません。
重要なのは事実確認ですので、訴えた側と訴えられた側と双方からヒアリングを行い、主張や経緯を明らかにする必要があります。
このとき重要な証拠となりやすいのがメールですので、双方のメール履歴を収集し、内容を確認してください。
同時に周囲からの情報も得るためヒアリングを行い、公平に調査を行うことが必要です。
会社としてパワハラの有無を判断するためには、同じ部署や関連部署内だけで完結させるのではなく、法務や労務を担当する部署など第三者的な立場の部門が主体となり、公平な調査を実施することが重要です。

 

■企業の責任が問われる

訴えを起こした側は、止めなかった企業側にも責任があるとして追及する姿勢が一般的でしたが、これまで企業側はあくまでも個人間の問題として放置する事例も少なくありませんでした。
ただ2019年5月にパワハラ防止法が成立し、企業側にも防止義務が課される見通しとなりました。
具体的な内容は今後示されますが、大企業に対しては2020年6月にも適用される見込みですので、個人間の問題として看過できる状況ではありません。
一律に基準が設けられることではないため常にケースバイケースで判断が迫られますが、過ぎたパワハラにより心身に異常を来した場合は労災に該当しますので、その点も認識が必要です。
事実が認められる場合には、職務規定に則り、当該社員に戒告や減給、降格などの処分が必要となります。
企業が社内にパワハラ訴訟問題を抱えた場合、調査結果も踏まえパワハラの有無を判断することになりますが、迷う際には顧問弁護士への相談が必須です。
企業がすべき対応はケースバイケースですし、裁判や労働審判への対応や団体交渉への対応などは弁護士が対応可能です。

 

■第三者委員会の設置も検討を

企業がパワハラで訴えられた際、写真や映像、音声データなどの記録が残されており、訴えた従業員や元従業員、取引先などが週刊誌をはじめ、メディアなどに情報を公開するケースも増えてきました。
現在、大手企業や規模の大きな中小企業などを中心にパワハラやセクハラの社内相談窓口を設ける場合や弁護士などの外部窓口に内部告発や相談ができる体制を整備するケースも増えています。
通常のパワハラ相談であれば、専用の内部窓口や外部窓口を通じてトラブルを穏便に解決し、当事者の和解の場を持つこと、パワハラを行った者への注意勧告や減給処分、左遷といった処置で、社内だけで処理できるケースも少なくありません。
一方、メディアに暴露されるなどして世間に広まってしまった場合や正式に裁判に訴えられた際には企業側が第三者委員会を設置することも検討に値します。

 

・第三者委員会とは

第三者委員会とは企業やパワハラを行ったとされる者、パワハラ被害者ともまったく利害関係のない第三者、たとえば、弁護士や法務や労務の専門家、パワハラ問題に詳しい大学教授などの見識者を集めて、実態調査や検証を行ってもらい、実際にパワハラが行われたのかを確認してもらったり、それに対する企業側の処置や対応が適切であったかを検証してもらったり、今後同じような被害が起こらないようにするためにはどうすべきかの意見などをもらう機会を設けるものです。

 

・第三者委員会を設置するメリット

メリットとしては、世間一般に対して企業で内部処理をしたのではなく、公正で公平な中立的な第三者の調査や見解のもとで、適正な判断を行ったことや適正な対応を行ったことを示すことができます。
パワハラによる信頼の喪失を最小限に抑えることや少しでも信頼の回復やイメージ回復につなげることが可能です。

 

・第三者委員会を設置するデメリット

デメリットとしては想定外の厳しい見解が出ることやパワハラをした者への企業が想定する以上の厳しい処分が出されることが挙げられます。
一方で、企業における第三者の選び方と見解によっては、企業寄りの息がかかった第三者委員会を設置したと揶揄されるなど、いっそう信頼が落ちる場合もあるため、どのような構成にするのかは慎重に検討しなくてはなりません。

 

■パワハラを起こさない職場にするための施策とは

今後企業に課せられるパワハラ防止義務を実行するためには、何が必要なのでしょうか。
まず、パワハラを未然に防ぐためには、起こしやすい人員の特徴や心理を把握することは重要なポイントです。
一概にいえませんが、過去の事例から加害者となりやすい人の傾向をまとめてみましょう。
まず、仕事であれプライベートであれ、ストレスが過剰な状態にあると発散のためパワハラ行為に及ぶ場合があります。
性格としては自己中心的で主張を無理にでも通すタイプ、自己顕示欲が強いタイプが多いでしょう。
周りに過剰に干渉したがるタイプも加害者になる可能性があり、本人が良かれと思ってした言動が相手に強い苦痛を与えるおそれがあります。
一方で、ハラスメントを受ける側にも問題社員が存在します。
企業にとっての問題社員とは、言動が常識を外れており協調性がなく、周りに迷惑をかける従業員です。
遅刻や欠勤を繰り返す、業務命令に従わない、注意指導しても改善しないといった態度で、職場の空気を悪くする存在です。
問題社員は被害者側に回る場合もあれば加害者側に回る場合もあるため、いずれにせよ放置はできません。
迷惑行為に巻き込まれた周囲の優秀な従業員が逆に見切りをつけて会社を去っていってしまうケースが非常に多いため、生産性が著しく低下する大きな火種となります。
こうした状況を作らないために企業ができることは、研修などの社員教育やアンケートなどによる職場の定期診断です。
日頃から徹底した社員教育を実施し、定期的に職場環境の診断を行うことで、常に風通しの良い環境を維持する努力も必要です。

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