コラム

民事裁判で「判決」を出すのは難しい?

■「判決」で終わらない民事裁判

日常生活で裁判に関わる経験は、そうそうあるものではないでしょう。
一般的には、民事裁判などに関する情報を目にする場合、ニュースや報道番組などが多いのではないでしょうか。
裁判というと「判決」という言葉が出てくることも少なくないため、多くの人は裁判の終わりは必ず判決で決まるものだと認識している場合もあります。
ただ実際には民事裁判の場合、必ずしも「判決」が出るとは限らないのです。
パーセンテージでいえば、判決文が出せるのは20%に満たない程度でしょう。
つまり民事裁判10件中で判決文が出せるのは2件程度で、残り8件では判決文を出すことがないということになります。
これは民事で判決文を出すことが容易ではないためですが、ではどうやって裁判を終わらせるのか、不思議に感じる人も多いかもしれません。
民事裁判では「裁判上の和解」という形で裁判が終わることが多く、事実、ほとんどの民事裁判では和解が進められることになります。

■「 和解」が進められる民事裁判

民事裁判で判決が出にくいのは、前述した通り民事では判決文を出すことが容易ではないためです。
たとえば刑事裁判であれば、量刑の幅が具体的に法律で明示されています。
裁判官は有罪か無罪か、法律と判例に照らし合わせて決定することが可能となり、比較的容易に判断することができます。
一方民事裁判の場合は、裁判官が正確に予測や評価をすることが非常に難しい内容です。
もちろん人命被害など特殊な場合であれば別ですが、被害金額なども計算式が定められているわけではなく、仮にある程度計算式が定まっている状況であっても正確な評価は非常に困難です。
裁判官が判断する以上、その判断の根拠は具体的に提示しなければなりません。
判決に至るほど正確な根拠を提示するのは、それだけで多大な労力を必要とし、事実上難しいといわざるを得ません。
結果的に裁判官が直接判断を下すより、当事者同士での解決を促し、話し合いで和解を進めるほうがスムーズな解決への道筋となるのです。
こうしたことから民事裁判では、第一回期日からの各種書面提出や証人尋問、当事者尋問などである程度情報が出揃ったところで心証開示を行い、判決のおおまかな方向性が示されるのが一般的です。
心証開示というのは裁判官から内容に関する心証の開示がなされることで、証人尋問が終わった後になされる場合、その内容はそのまま判決になる可能性がとても高くなります。
たとえば不利な心証を開示された場合は、判決が下される前に和解によって相手方から一定の譲歩を引き出すほうが得策になる場合も多いですし、より良い着地点を探す手掛かりになるでしょう。
裁判官はこうしたことで強制力を持って判断を下す前に当事者同士が解決に向かえるよう、和解を進めることになります。

■民事裁判における「和解」とは

民事裁判では事案の審理が一通り進むと、裁判官が当事者に和解の席につく考えがあるかどうか尋ねるのが一般的です。
早期解決を目指すならなおのこと、当事者間の紛争を円満解決するためには和解できることが一番望ましいと考えるからです。
当然、当事者だけでは折り合いがつかないため裁判所へ持ち込んでいるわけですから、合意するためにはその筋道が必要となります。
裁判所は当事者と個別に話し合い、和解に向けての方向性を提示することになります。
おおむね提示されるのは、「裁判所としてはこれぐらいの線が妥当だと思われる」といった内容です。
それは裁判所が事案に対して持つ心証ですので、当事者としても受け止めるしかないでしょう。
時間をかけて判決にたどり着いたところで、結果的には裁判官の心証通りになることが予想されるからです。
ただしこの場合、はっきりと心証を開示してもらえる場合もあれば曖昧な場合もあり、具体的に心証を掴みにくいケースもあります。
その場合は裁判官の発言を深く聴きながら、おおよその判断をしなければなりません。
そうしたステップを踏みながら「裁判上の和解」が成立した場合、そこで作成される「和解調書」は判決と同じだけの拘束力を持ちます。
つまり、万が一条項に記載された内容が実行されなければ強制執行も可能となり、執行しても法律上の問題はなくなります。

■和解にはメリットがある

和解の最大のメリットは、判決とは違い和解調書の条項にいろいろな条件を入れられる点です。
あらかじめ細かい部分まで盛り込んでおくことで、将来の生活を守り円満解決にたどり着くことも可能です。
また裁判所としては、当事者が最終的に自らの意思で合意に至ることで、裁判が終わった後にも当事者間の関係が必要以上にこじれないことをメリットと考えています。
強制力を持つ法機関が判決という形で結論を出すよりも、当事者同士が自発的に解決に至ったという事実があるほうが、両者の将来的関係へ良い影響を与える結果になるでしょう。
心証開示をもとに当事者同士が話し合う場を持つことで、ある程度柔軟に、妥当で履行されやすい結論を出せる点にもメリットがあります。
合意という形になった以上、無理やり下された判断に渋々従うわけではないからです。
裁判所が介入し裁判官が心証開示することで、たとえ裁判官の判断ではなくてもある程度妥当性のある内容になることも考えられます。
裁判官の負担を軽減するだけでなく当事者にとってもメリットが多く、より早期に円満解決にたどり着くことが期待されるのです。
なお、厳密にいうと和解は譲り合いですが、そうではなく「請求の放棄」や「認諾」という結果もあります。
こちらは合意の場合でもどちらかの側が相手の主張を全面的に受け入れたことを意味します。
ただこの場合でも、重要なのは当事者間の合意が成立しているという点です。
いずれにせよ合意を持って解決するという結果は民事裁判では理想形とされ、実際に非常に多く見られるケースです。

■民事裁判での弁護士の役割とその費用とは

民事裁判では判決が出にくいことも踏まえて、果たして弁護士の役割はどこにあるのかは気になる人も多いでしょう。
結論からすれば、民事裁判での弁護士の重要な仕事は、和解調書の内容を正しくまとめることです。
裁判上の和解が成立した際に作成される和解調書には、判決と同じ強制力があることは前述しました。
この内容をきちんと強制執行できるよう文面にまとめるのは、原告側の代理人弁護士の重要な責務の一つです。
というのも、民事執行法に定められた強制執行はあくまで債権者が債務者に対して行うものと定められているからです。
つまり万が一の不履行の場合、債務形式にしないと強制執行をしたくてもできないことになり、文面としては不完全といえます。
民事裁判での弁護士の役割といえば、こうのような書面作成が主な仕事といえるでしょう。
それでは費用面に関してはどうでしょうか。
和解では互いが譲り合いますので、単純な結果では原告も被告も勝訴した場合に相当する権利は受けられません。
つまり原則として、この場合弁護士が成功報酬を全額貰うのは不適切と考えられます。
かつては弁護士報酬会規と呼ばれるルールがあり、「調停事件の際は報酬は3分の2とする」という定めがありました。
現在は弁護士法が改正され、報酬制度も完全に自由化されているためこのルールは強制力を持ちませんが、現在も法律事務所によっては報酬を2/3としているところもあります。
とはいえ、あくまで実質的な成功だと主張し、成功報酬を高い割合で請求することもまた自由ではあります。
どのような結果に対しどれくらいの成功報酬となるかは法律事務所によってマチマチですので、契約前に確認が必要な事項です。
場合によっては3分の2という旧ルールを例に、減額交渉をすることも可能かもしれません。

あなたの「不安」を取り除いて、「安心」へ。
まずはお気軽にお問合せください。

お問合せフォームへ

【受付時間:平日午前10時から午後5時30分まで】